『RETURN(ハードバージョン)』


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

自由闊達で才気に満ちた原田真人の演出
 端正なホームドラマだった前作『わが母の記』から一転、原田真人監督の新作はハードボイルドタッチのバイオレンス・アクションだ。暴力団の若社長を殺して南米に高飛びした男が、あるミッションを帯びて10年ぶりに帰国するが、それを知った暴力団の3姉妹が復讐に乗り出し…。

 前作で小津安二郎の影響を口にした原田監督は今回、原発問題やブラジル移住のエピソードを盛り込んで黒沢明の『生きものの記録』にオマージュを捧げているが、それ以上に特筆すべきは、彼自身の伝説的な出世作『KAMIKAZE TAXI』の続編的な色合いが強いこと。後半は明らかに同じ地方の町や旅館でロケされているし、南米ネタやタクシーによるロードムービー的な展開、さらには、随所で見られる即興芝居によって俳優から“素”の魅力を引き出す演出もしかり。
 本作は、スマホ向けアプリ「UULA」の携帯配信ドラマを劇場用に再編集したものだが、その気軽さが、原点回帰したかのような自由闊達で才気に満ちた演出を生んだように思う。そもそも『KAMIKAZE TAXI』自体がオリジナル・ビデオとして製作された作品だった。紛れもない傑作だった前作よりも、少々いびつな今回の方が、原田真人好きのツボにハマるのではないだろうか。★★★★★(外山真也)

 【データ】
監督・脚本:原田眞人
出演:椎名桔平、水川あさみ、山本裕典、キムラ緑子、土屋アンナ
8月24日(土)から全国順次公開
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
外山真也のプロフィル
 とやま・しんや 映画ライター&時々編集者。1966年愛知県出身。学生時代はヨーロッパ映画を中心に見ていたが、情報誌の仕事が長かったため、今は洋の東西を問わず、単館系からハリウッドまで幅広くが信条。主な執筆媒体:月刊TVfan、日本映画navi、ぴあ各誌。
(共同通信)

(C)UULA
外山 真也