『ペット探偵は見た!』 藤原博史著


社会
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ほとんどバイオハザード
 タイトルと装丁にB級感があふれている。でも「迷子のペットを捜す探偵の事件簿」という触れ込みと、「読まないの?」とでも言いたげな表紙の猫のつぶらな瞳に抗しきれず買った。「笑って泣けるノンフィクション」と帯にある。ウソである。私はほとんど戦慄した。

 もちろん、飼い主に1カ月ぶりに会えた愛犬が涙をボロボロこぼす話など感動的エピソードもある。が、それ以外の話が強烈すぎる。
 結婚を機にワンルームマンションで飼っていた30匹の猫を殺処分しようとする女性。友だちの愛犬を壁に叩きつけて殺した幼い女の子。嫉妬のあまり恋人の飼い猫を連れ去ってセミの死骸を部屋にばらまいた彼氏。飼い主の求めに応じて、探偵はビルからビルに飛び移り、排水溝をほふく前進し、山中を駆けめぐる。もうバイオハザードの世界だ。
 しかもこの探偵、動物好きなんてもんじゃない。幼い頃から自室に大量のクモを放し飼いにし、ドブネズミ、コウモリ、レース鳩を飼い、中学時代はホームレスとなって野良犬や野良猫を引き連れてコンビニのゴミ箱をあさり……という仰天人生。著者は書く。「このときの経験があるからこそ、『今のこの気候と天候なら、猫はだいたいこういう場所にいる』という勘が働くようになったのかもしれません」。そういう問題なのだろうか。
 巻末には犬や猫、鳥などの「捜索ノウハウ」がタイプ別で。へー、洋犬は人なつっこいけど、和犬は単独行動が多いのか。って、なんなんだよ、この本は!
 (扶桑社 1300円+税)=片岡義博
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片岡義博のプロフィル
 かたおか・よしひろ 1962年生まれ。共同通信社文化部記者を経て2007年フリーに。共著に『明日がわかるキーワード年表』。日本の伝統文化の奥深さに驚嘆する日々。歳とったのかな。たかが本、されど本。そのあわいを楽しむレビューをめざし、いざ!
(共同通信)

ペット探偵は見た!
ペット探偵は見た!

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藤原 博史
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片岡 義博