『ゼンタイ』 全身タイツ愛好者たちが主人公


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 大根仁監督『恋の渦』に続き、気鋭監督&若手俳優のワークショップからまた秀作が生まれた。本作は、山川直人監督らが所属する芸能事務所「アプレ」が主催しているもので、4日間のワークショップと3日間の撮影で完成したものだ。講師を務めたのは、『ハッシュ!』や『ぐるりのこと。』の橋口亮輔監督。前者は同性愛者、後者は子供の喪失と特殊な状況下におかれた人たちが、悩んだり傷つけあったりしながら絆を深めていく姿を描いた。

 本作も全身タイツ(略してゼンタイ)愛好者たちが主人公と、一見フツーじゃないが、彼らが抱えている問題は身近だ。今どきの若者の常識のなさにキレそうになる先輩コンパニオンやスーパーの店員、主婦友の関係に悩む女性などで、彼女らがゼンタイ愛好家の集いに参加するまでをオムニバス形式で描く。
 ゼンタイで素性が分からなくなった彼らが、ようやく本音を語る集会が見せ場だ。その様子はまるで、インターネット投稿サイト2ちゃんねるが盛り上がるのと同じ。でも彼らはゼンタイを着ることで勇気を得て、人との触れ合いを図る。不器用だが、なんて愛おしい人たちだろう。
 最近は実際に、東京メトロ丸ノ内線方南町駅で、ゼンタイに身を包んだ「ベビーカーをおろすんジャー」が、エレベーターのない駅で人助けに精を出している。羞恥心なく困っている人に声をかけられるらしい。ゼンタイ…なかなか奥深いツールである。★★★★☆(中山治美)

 【データ】
原案・脚本・監督:橋口亮輔
撮影・照明:上野彰吾
出演:中島歩、篠原篤、森優太
8月31日(土)から東京のテアトル新宿にてレイトショー公開
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中山治美のプロフィル
 なかやま・はるみ 映画ジャーナリスト。1969年水戸出身。スポーツ紙出身の血が騒ぎ、撮影現場やカンヌ、ベネチアなど映画祭取材に燃える。三池崇史、深作欣二、キム・キドク、アキ・カウリスマキなどひとクセのあるオヤジたちが大好き。
(共同通信)

(c)2013映画「ゼンタイ」を応援する会
中山 治美