『わたしはロランス』 圧倒的なビジュアルセンス、斬新な発想力


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 1989年生まれ、現在24歳ながら既にカンヌ映画祭の常連で、今年のベネチア映画祭に出品された監督第4作『Tom a la ferme』でついに3大映画祭のコンペ入りを果たしたカナダの新鋭グザヴィエ・ドラン。これは彼の3作目にして、記念すべき日本初公開作品である。

 突然「女になりたい」と恋人に打ち明けた国語教師ロランスと、彼の理解者でありたいと努めるものの鬱状態に陥ってしまう恋人のフレッド。ふたりの10年間にわたる関係を描く2時間48分の長尺だ。監督自身が同性愛をカミングアウトしていることもあり、と書くと偏見なのかもしれないが、本作には男女関係を俯瞰して見ているような説得力がある。
 だが、それ以上に瞠目すべきは、圧倒的なビジュアルセンス、色彩感覚、斬新な発想力。画面の奥行きも上下もフル活用して提示される魅惑の映像の数々からは、この新鋭監督には生まれながらにして映画の本質にコミットできる資質が備わっているとしか考えられない天才性が感じ取れる。ガス・ヴァン・サントが絶賛するのも当然だろう。
 こんな才能を日本の配給会社が見逃すはずはなく、過去2作品もこの後日本公開されるらしい。2013年は、グザヴィエ・ドランが日本の映画ファンの心を鷲づかみにした年として、映画史に刻まれるに違いない。★★★★★(外山真也)

 【データ】
監督・脚本:グザヴィエ・ドラン
出演:メルヴィル・プポー、スザンヌ・クレマン、ナタリー・バイ
9月7日(土)から全国順次公開
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外山真也のプロフィル
 とやま・しんや 映画ライター&時々編集者。1966年愛知県出身。学生時代はヨーロッパ映画を中心に見ていたが、情報誌の仕事が長かったため、今は洋の東西を問わず、単館系からハリウッドまで幅広くが信条。主な執筆媒体:月刊TVfan、日本映画navi、ぴあ各誌。
(共同通信)

外山 真也