『野生の鼓動を聴く~琉球の聖なる自然遺産』 圧倒される自然の奥深さ


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『野生の鼓動を聴く~琉球の聖なる自然遺産』山城博明撮影 花輪伸一解説 高文研・3800円

 「奄美・琉球」が世界自然遺産への登録候補地として注目されるなか、琉球列島の動植物や自然景観を収めたタイムリーな写真集が出版された。ただし世界遺産ブームに便乗した観光写真集などとは性格が異なる。

 本書は、40年余にわたって報道カメラマンとして第一線で活躍しながら、ライフワークとして琉球列島の自然の魅力と動植物の生態を、レンズを通して探求し続けてきた著者のアンソロジー写真集である。
 老練なカメラマンの眼で浮き彫りにされた島々の自然の多様さと奥深さは読者を圧倒せずにはおかない。亜熱帯の自然の鼓動が伝わってくるような172枚の写真に圧倒されながら、「自分は沖縄をどれだけ知ってるだろうか」と自省させられた。
 まじかに迫ってくるイリオモテヤマネコのさまざまな生態、昼と夜のケラマジカの不思議な行動、水中で繰り広げられるジュゴンの美しい姿態、ノグチゲラやアカショウビンの営巣活動の愛らしさ、コメツキガニの圧倒的な大軍団、ヤンバルクイナの決闘シーン等々、学術的にも貴重と思われる野生の生態が巧みに活写されている。
 なかには空中遊泳術で撮影したとしか思えないような奇抜な作品もある。例えば、「与那国島の立神岩」。不可能と思われた真っ正面からのアングルでとらえた岩山の全容は神々しいまでの威容を初めてわれわれの眼前に現した。どうやって撮ったのか、などとやぼなことは聞くまい。この1枚の写真の背景に数十年来の写真家の執念がこめられていたであろうことは、例えば「緑の太陽」に付された作者のキャプションを読めば納得できる。「日没直前、太陽は緑の閃光を放つ。40年間も追い続けて、やっととらえた一コマである」
 巻末に花輪伸一氏が「解説・琉球列島の生物多様性と世界自然遺産」を寄せている。専門家の立場から自然遺産登録への道を視野に入れながら、価値ある島嶼生態系を破壊する脅威として、森林伐採、公共事業、リゾート、外来種、軍事基地を挙げ、登録指定区域にパスするためには、これらの問題を解決する努力が必要であると警鐘を鳴らしている。
 (大城将保・新沖縄県史編集委員)
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 やましろ・ひろあき 1949年、宮古島生まれ。琉球新報写真部カメラマン。著書に『沖縄戦「集団自決」消せない傷痕』『琉球の記憶・針突』など。

野生の鼓動を聴く
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