『許されざる者』 圧倒的な映像の力


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 クリント・イーストウッド監督の同名作品を、映画『フラガール』に『悪人』と立て続けに良作を発信している気鋭監督・李相日が日本で甦らせた注目作。イーストウッド版と比較すると面白い。

ストーリーラインはもちろん、セリフまでほぼ同じ。なのに同時期の明治維新期の北海道に置き換え、蝦夷地開拓やアイヌ民族、官軍に敗れた幕府軍の残党といった日本的な要素を絡ませると、一層物語に重みと痛みが出てくる。とりわけ、大地が湿り、武器が銃から刀になると残酷さは10割増へ。惨殺版『北の零年』といった趣だ。
 亡き妻に刀の封印を誓った“人斬り十兵衛”という男が、女郎を傷つけた男の首に懸けられた賞金を稼ごうと昔の仲間から誘われ、再び刀を手に取るまでの心の旅だ。イーストウッド版を観てしまっているだけに、渡辺謙にもう少し枯れた男の悲哀がほしいところ。アイヌ民族の精神も彼の行動に影響しているようだが、分かりづらい部分もある。
 ただ、そうした細かいことをすべて帳消しにしてしまう圧倒的な映像の力がそこにある。シネマスコープで広がる北海道の雄大な景色は、人間の争いがいかに醜く愚かなことであるかを余計に印象づける。一見の価値あり。★★★★☆(中山治美)

 【データ】
監督:李相日
音楽:岩代太郎
出演:渡辺謙、柄本明、柳楽優弥、佐藤浩市
9月13日(金)から全国公開。
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中山治美のプロフィル
 なかやま・はるみ 映画ジャーナリスト。1969年水戸出身。スポーツ紙出身の血が騒ぎ、撮影現場やカンヌ、ベネチアなど映画祭取材に燃える。三池崇史、深作欣二、キム・キドク、アキ・カウリスマキなどひとクセのあるオヤジたちが大好き。
(共同通信)

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中山 治美