【チャイナ網路】悲しみの万華鏡


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 陳昇(48)が昨年末にリリースした14枚目のアルバム「這些人、那些人(この人たち、あの人たち)」が今、台湾ばかりでなく中国本土でも高く評価されている。描いたのは夢破れつつも中国でさすらい続ける台湾人。いわゆる“台流”の心の声だ。
 事業に失敗し、あるいはリストラされつつも、不確かな未来にすがり続ける彼ら。新曲「母さんに伝えてくれ」は、夜半に泣きながら目覚めてつぶやく母へのざんげだ。うそで固めた強がりを包み込むように、上海友好交響楽団のストリングスが優しい。
 台湾ロック界の大御所とも呼ばれる陳昇だが、その心底には今も都会にあこがれ続ける少年がいる。収録された「犬のような日々」は、スプートニク2号の実験犬に題材を得た映画の題名だ。あの宇宙で息絶えたライカ犬のように、結局は死だけが待つ上昇を人は止められないと悲しみ、慈しむかのようでもある。
 あるいは多くの台湾人にとって単なる大都会の代名詞となった上海。アルバムは、そのネオンの洪水と闇を映し出す、美しくも悲しい万華鏡のようだ。
(渡辺ゆきこ、本紙嘱託・沖縄大学助教授)