『ビザンチウム』 バンパイア映画を進化させたニール・ジョーダン


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 『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』のニール・ジョーダンが再びバンパイア映画を撮った。しかも主演が『つぐない』のシアーシャ・ローナンで、“思春期もの”でもあるため、「赤ずきん」をモチーフにした出世作『狼の血族』も思い出される。舞台は、海辺の寂れた保養地。16歳のエレノアは8つ年上のクララと放浪を続け、人目を忍ぶように生きてきたが、この地で白血病の青年と恋に落ちてしまい…。

 バンパイアと映画は相性がいい。不老不死という設定が、映画が持つ“時間の芸術”という側面を刺激するから。とりわけ、エレノアが老人の生き血ばかりを吸う理由に、時間のテーマを担わせた緻密な脚本は、『ぼくのエリ 200歳の少女』に比肩する出来栄えだ。
 加えて、親指の爪に牙の役割を代替させるアイデアも秀逸。人間の歯はアップに耐えない。フォトジェニックではないのだ。特殊メークの牙の義歯であればなおさら。それに対して、手とりわけ指は、人間の身体中で最も映画的なアイテムのひとつと言える。運動性も官能性も、時には叙情性すら作り出せる。ニール・ジョーダンは今回、『インタビュー~』で得た教訓を生かし、バンパイア映画を進化させたわけだ。
 美少女、血、時間、さらには中性的な登場人物を含めたジェンダー問題まで盛り込まれた本作は、彼の映画の集大成と呼べるだろう。★★★★★(外山真也)

 【データ】
監督:ニール・ジョーダン
出演:シアーシャ・ローナン、ジェマ・アータートン
9月20日(金)から全国公開
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外山真也のプロフィル
 とやま・しんや 映画ライター&時々編集者。1966年愛知県出身。学生時代はヨーロッパ映画を中心に見ていたが、情報誌の仕事が長かったため、今は洋の東西を問わず、単館系からハリウッドまで幅広くが信条。主な執筆媒体:月刊TVfan、日本映画navi、ぴあ各誌。
(共同通信)

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外山 真也