『南部芸能事務所』 畑野智美著


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

静かに突きつけられる“夢と才能”の問題
 人を笑わせることは難しい。例えば映画やテレビで、コメディー作品を書くのも演じるのも、感動的な物語を書くことや演じることより難しいし技量がいると思うのだが、どこか“笑い”が軽視されがちな世の風潮が悲しい。性別や年代によっても笑いのツボが違うので、芸人はみな、いとも簡単に笑わせているように見えるかもしれないが、実はとてつもない才能の持ち主なのだと、声を大にして主張したい。

 本書は芸人が所属する小さなお笑い事務所、南部芸能事務所の物語。所属芸人や事務所の社長、彼らを取り巻くファンなどの視点から語られる7つの物語。「何がなんでも売れてやる」といった若手芸人のぎらぎらとした熱い話が繰り広げられるのかと思っていたが、想像とは違ってスマートだった。でも、そこがこの本の最大の魅力。ひとりひとりの心情が丁寧に綴られていくので、誰にも共感できたし、誰もが魅力的に映った。
 大学生になって初めて見たお笑いライブに感動して芸人を目指すことになる若手芸人の、夢や希望に溢れてはいるものの先の見えない将来への不安。一度ブレークしたもののその後ゆるやかに下降していく芸人、なかなか芽が出ないトリオの焦り、芸人の追っかけをしている女子高生の清く正しい真っ直ぐさ、内海桂子師匠をモデルにしたかのようなベテラン芸人のすべてを包み込むような眼差し、社長の憂いなど“芸人”という職業を抜きにしても誰しもがいつか必ずぶつかる夢と才能の問題が我が身に突き刺さる。
 既にシリーズ化が決定しているそうで、次回作が今から楽しみ。深夜ドラマ枠あたりでの映像化なんかも期待してしまう自分がいる。
 (講談社 1400円+税)=江藤かんな
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
江藤かんなのプロフィル
 えとう・かんな 1980年生まれ。書籍編集を経て、雑誌編集の道へ。女性の興味・関心ごとを探る日々。好きなものは、こけしとおかし、お寺と仏像、お笑い全般。得意ジャンルは、雑学、ブーム、ゴシップ系。くだらないこと(もの)、大歓迎!
(共同通信)

南部芸能事務所
南部芸能事務所

posted with amazlet at 13.09.18
畑野 智美
講談社
売り上げランキング: 286,155
『南部芸能事務所』 畑野智美著
江藤 かんな