『東京百景』 又吉直樹著


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太宰治の生まれ変わり!?
 太宰治大好き芸人・又吉直樹さん。上京して初めて住んだ家が、かつて太宰が暮らしていた住所と同じだったり、元カノが太宰の奥さんと同じ名前の「みちこ」だったり、犬嫌いだったり、又吉さんが小さい頃から描いてきたイラストが太宰のイラストと酷似していたりと、なんらかの強いつながりを感じさせるエピソードも多く、太宰治の生まれ変わりでは?と思ってしまうのは、さすがに私のひいき目だろうか。

 それでも、(生きていれば)太宰の100歳となる2009年から毎年開催している「太宰ナイト」と称するイベントや、そこで披露される普段とは少し違った冗舌な語り口を見れば、太宰治に対する憧憬や尊敬の精神は疑う余地もないことが分かるだろう。
 そんな又吉さんの新刊は「東京」をテーマにした100編からなるエッセー集だ。上京して間もない頃から、芸人として活躍する現在まで、日常に起こったささいなことや、出会った人の思い出が、東京の風景とともに語られる。とりたててドラマチックな出来事は起こらないし、勝手な妄想だけが広がっていくことも多いのだが、それがまるでショートショートの物語のよう。エッセーという枠を超えた面白さがある。
 描かれる風景も独特だ。シュールな出来事にも多々遭遇する。「東京」から想像する華やかさや賑やかさとは無縁の、あまり聞き知れぬ街も多く取り上げられる。そのせいか、どのエッセーも朝日というよりは夕暮れ時のちょっと寂しさや余韻の残る風景という印象。意外にロマンチストなのかも、とご本人は嫌がるであろう感想を抱いたりして。
 読み終える頃、誰もが自分の「東京百景」を探したくなる。そして毎日の風景を、たとえそれが見慣れたものであったとしても、大切に心のポケットにしまいながら生きていきたいと思った。
 (ヨシモトブックス 1300円+税)=江藤かんな
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江藤かんなのプロフィル
 えとう・かんな 1980年生まれ。書籍編集を経て、雑誌編集の道へ。女性の興味・関心ごとを探る日々。好きなものは、こけしとおかし、お寺と仏像、お笑い全般。得意ジャンルは、雑学、ブーム、ゴシップ系。くだらないこと(もの)、大歓迎!
(共同通信)

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