『そして父になる』 母親の悩みに比べて男のは…


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 本年度のカンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞。福山雅治が初の父親役を演じたことでも話題だ。6歳になる子供の取り違えが発覚し、あらためて自身と子供の絆を再認識する、エリート男の成長記でもある。

 「父になる」物語として考えさせられることは多々あるのだが、でもやっぱり、すんごい残酷で身勝手な男の話なのだ。優秀な自分とちっとも似ていない息子が実は他人の子だったと発覚した時につぶやく一言に愕然。「やっぱりそういうことだったのか」と。この言葉に妻役の尾野真千子は傷つき、最後まで根に持つことになる。
 普段は男女云々で映画を見たくないのだが、今回ばかりは男目線の物語だなーと、尾野と真木よう子演じる母親役に共感しきり。劇中で彼女たちが吐露する言葉が重い。尾野はおなかを痛めて産んだ母親なのに取り違えられた時に気づかなかった自分を責め、真木は似てない子供に、親戚から浮気を疑われたことがあると告白する。それに比べて男の悩みってのは…小さい。
 くしくも、同じ取り違えを題材にした『もうひとりの息子』も10月19日に公開。こちらは宗教や人種といったアイデンティティーに関わる問題も絡む。両作観ることをオススメしたい。★★★★☆(中山治美)

 【データ】
監督・脚本・編集:是枝裕和
撮影監督:瀧本幹也
出演:福山雅治、尾野真千子、真木よう子、リリー・フランキー
9月28日(土)から全国公開
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中山治美のプロフィル
 なかやま・はるみ 映画ジャーナリスト。1969年水戸出身。スポーツ紙出身の血が騒ぎ、撮影現場やカンヌ、ベネチアなど映画祭取材に燃える。三池崇史、深作欣二、キム・キドク、アキ・カウリスマキなどひとクセのあるオヤジたちが大好き。
(共同通信)

(C)2013 『そして父になる』製作委員会
中山 治美