『浅き夢見し』 押切もえ著


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真っ直ぐ、最高!
 モデルから女優のコースでもなく、かといってタレントの枠に収まるのでもなく、とても独特な何かを目指しているかのような押切もえ。彼女が初めての小説を発表した。
 主人公は売れないモデル。「間違って」事務所にスカウトされたものの、体型はモデル向きではないし、顔だってそれなり。モチベーションも十人並みであるが故に、当然オーディションには落ちまくり、仕事はぜんぜんない。恋愛もうまくいかずに、高校時代から続けるスーパーのアルバイトで小遣い稼ぎをしながら、将来への不安やストレスは食べることで解消。それでまた体重も増え、どんどん憧れのモデルから遠ざかっていく。ある日、テレビ局のプロデューサーからの「夜」の誘いを断ったことから、所属事務所に圧力が。もともと彼女に期待をしていなかった事務所は、あっさりと契約を解消。さて、モデルへの道を閉ざされた25歳の女性はどうするのか?

 結末まで説明するまでもなく、この小説は、夢は努力すれば叶う、という話なのだ。いやそんな真っ直ぐなことを言われても……と戸惑うことは確かに戸惑うのである。これまでそんなこと百万回も言われてきたよと、思わないこともない。いやいや夢だけでは食べてはいけませんから、と大人っぽく切り捨てた方が楽なような気もする。
 でも、きっと筆者に限ったことではないと思うが、夢は努力すれば叶う、とまだどこかで確かに思い込んでいる節がある。2013年秋の今、それを大きな声で口にするのは街に漂う空気とフィットしないような気がするけれども、そうであってほしいと願っているし、実のところ、自分の努力が足りないと焦っていたりする。普段はそんなことは面倒臭くて考えないようにしているのに、この真っ直ぐすぎる物語に、いとも簡単に感化されたのだ。
 夢と努力、夢と努力、夢と努力、その先にハッピー。それが100パーセント真実ではないとしても、そう大きな声で言い切れる人にしか、切り開けない道がある。
 今の押切もえの夢がなにかは分からないけれど、彼女がなろうとしている独特な何かが気になる。
 (小学館 1200円+税)=日野淳
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日野淳のプロフィル
 ひの・あつし 1976年生まれ。出版社で15年間、小説、音楽、ファッションなどの書籍・雑誌の編集に携わり、フリーランスに。今、読む必要があると大きな声で言える本だけを紹介していきたい。
(共同通信)

浅き夢見し
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