『沖縄と「満洲」』 卓越した“ジェンダー史”


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『沖縄と「満洲」』沖縄女性史を考える会編 明石書店・10000円

 「移民県」といわれる沖縄。それだけに、『沖縄県史』をはじめ、移民を送り出した多くの市町村がそれぞれの自治体史でその歴史記録にページを割いてきた。しかしながら、本書を手にした者であれば、かつて、これほど緻密に調査された「移民史」はあったかと思わずにはいられないほど、質・量ともに画期的ともいえる「満洲」移民の記録書が上梓(じょうし)されたのである。

 それを実現させたのは、在野の女性史研究グループとして、さまざまなテーマに取り組み実績を挙げてきたメンバーの中の4人の女性たちである。家事労働と並行しながら、それぞれの都合に合わせて集い、調査、資料収集、分析、原稿のまとめ等々、筆紙に尽くせない労苦があったことは十分推察できる。
 しかし、彼女たちは、国策による農業移民の「開拓団」として極寒の「満洲」(中国東北部)に送り出された沖縄の人々の募集から入植、現地での生活の実態、戦争が始まってからの現地召集、逃避行、引き揚げなど、当事者の証言を中心に、さらにその裏付け調査として膨大な資史料を駆使した詳細な記録を本書に収載したのである。
 しかも、国策でありながら、名簿はおろか送り出しの人数さえ不明な状況のなかで、15年に及ぶ調査によって、沖縄出身者の全「開拓団」の戸数、人数、現地での出産、死亡、さらに引き揚げ者数、死亡者数等々の「戸別状況」を明確にするという、卓越した作業まで成し遂げた。
 こうした彼女たちの労作は、女性史の枠を超えて、国家の甘言に翻弄(ほんろう)された女性・男性という両性関係と、民族差別を視野に構成した、いわゆる“ジェンダー史”といえるものである。国家権力によって、沖縄を含む日本の貧しい地域の人々が、“棄民”とされた一方で、“侵略者”として、中国民衆を翻弄し犠牲の渦に引き込んだいわば“加害性”にも言及しているからである。
 「沖縄の農業移民団の姿を顧みて、日中『両民衆の哀史』以外のなにものでもなかった」という「あとがき」は、沖縄から日本の歴史認識を照射するうえできわめて示唆的だ。
(宮城晴美・沖縄女性史家)
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 沖縄女性史を考える会 代表・伊良部住恵、嘉数かつ子、比屋根美代子、山内るり

沖縄と「満洲」―「満洲一般開拓団」の記録
明石書店
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