『人生に座右の銘はいらない』 松尾スズキ


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答えて、ぼやいて、おもしろがって
 劇団「大人計画」の主宰者、松尾スズキ(大人気ドラマ『あまちゃん』では喫茶店「アイドル」のマスター役で出演)による人生相談本。自身のメルマガ『松尾スズキの、のっぴきならない日常』の人生相談コーナーに寄せられたやり取りをまとめた一冊だ。

 松尾が26歳の時に作った「大人計画」には、今をときめく宮藤官九郎や、阿部サダヲ、荒川良々など、映像での活躍も著しい濃いいメンバーが顔を揃えている。演技のうまさはもとより、それぞれの個性がとにかく際立っており、メンバーがみんな楽しそうに活動している劇団、という印象も強い。
 劇団の主宰として、堅実とはかけ離れた人生を送りながらも、劇団を軌道に乗せるために道なき道を自ら切り開いてきた先駆者! 人生において「おもしろ」を重視する道を選んだがため(?)結婚に失敗、かなり笑えない離婚をふまえて現在に至るという、これまでの自分の人生の中での数々の苦しい経験や不幸体験をベースに、多種多様な相談ごとに回答していく。
 嫉妬をしてしまうという相談には「あるあるー。嫉妬はありますよ。」とすんなり負の感情を認め、「俺みたいに作品や演技にギャグをいれないと気がすまない性分の人間は、日本では賞的なものとはほとんど無縁です。」とぼやく。相談に答えながら、自分のボヤキもちらほらと散見させる、この松尾式・人生問答が心地よく、じわじわと体に染み入ってくる。最後の章には大人計画のメンバーからの人生相談にも答えており、大人計画ファンにも目配りが利いている。
 生きる目的や意味をみつけられないという相談への回答が、いかにも松尾さんらしく、心に響く。「おもしろいものは勝手に寄ってきてくれません。出歩く気力すらないなら、身近にあるものを勝手におもしろがれ!です」。はい、松尾さんの二の舞を演じない程度に、面白がります!!
 それにしても、松尾さんがマスターとして働いている喫茶店が、現実にもあればいいのに!
 (朝日新聞出版 1000円+税)=江藤かんな
(共同通信)

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江藤かんなのプロフィル
 えとう・かんな 1980年生まれ。書籍編集を経て、雑誌編集の道へ。女性の興味・関心ごとを探る日々。好きなものは、こけしとおかし、お寺と仏像、お笑い全般。得意ジャンルは、雑学、ブーム、ゴシップ系。くだらないこと(もの)、大歓迎!
(共同通信)

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