『ダイアナ』 伝記ものというよりは恋愛映画


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 ナオミ・ワッツが、元英国皇太子妃ダイアナを演じる。柔らかい声でささやくように話す一番の特徴を完璧に再現した、その“なりきり”ぶりが評判だ。ただし、ダイアナの知られざる恋にスポットを当てた内容で、伝記ものというよりは恋愛映画。パキスタン人の心臓外科医ハスナット・カーンとの1995年の出会いから、97年8月31日に交通事故で亡くなるまでが描かれる。

 監督は、『es[エス]』『ヒトラー~最期の12日間~』で知られるドイツ出身のオリヴァー・ヒルシュビーゲル。残念ながら今回は、彼一流のジャンル映画の中に叙情性を盛り込む作風はうまく機能していないが、それでもカーン医師の愛煙家ぶりに彼らしさが垣間見える。
 たばこと言えば、『風立ちぬ』の喫煙シーンが論争を巻き起こしたことは記憶に新しいが、ヒルシュビーゲルもたばこを使った演出を好むひとり。代表作『ヒトラー~』ではナチスの将校たちがひっきりなしに吸うたばこの煙が、追い詰められたナチスの窮状や士気の停滞を見事に視覚化していたが、そんな比喩表現のみならず、例えば人物の位置関係や光源を煙で伝えるなど空間表現においても、たばこは映画にとって必須のアイテム。世界的な禁煙の流れが、映画に及ぼすダメージは計り知れない。★★★★☆(外山真也)

 【データ】
監督:オリヴァー・ヒルシュビーゲル
出演:ナオミ・ワッツ、ナヴィーン・アンドリュース
10月18日(金)から全国公開
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外山真也のプロフィル
 とやま・しんや 映画ライター&時々編集者。1966年愛知県出身。学生時代はヨーロッパ映画を中心に見ていたが、情報誌の仕事が長かったため、今は洋の東西を問わず、単館系からハリウッドまで幅広くが信条。主な執筆媒体:月刊TVfan、日本映画navi、ぴあ各誌。
(共同通信)

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外山 真也