『もうひとりの息子』 政治情勢や民族・宗教問題が前面に


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 昨年の東京国際映画祭でグランプリと監督賞をW受賞したフランス映画で、舞台はイスラエル。18年前、湾岸戦争のさなかに病院のミスで赤ん坊が取り違えられてしまったイスラエル人とパレスチナ人の家族をめぐる物語だ。大ヒット中の『そして父になる』と同じ“子供の取り違え”を扱っているが、テーマは別モノと言っていい。

 『そして父になる』では、親子にとって大事なのは“血筋”? それとも“共に過ごす時間”? という問題を軸に、現代日本で常識とされる価値観に疑問が呈される。それに対して本作では、イスラエル・パレスチナ紛争、湾岸戦争といった政治情勢や民族・宗教問題が親子の絆以上に前面に押し出されていて、テーマもグローバル。ただし、それは両刃の剣でもあって、この悲劇を前向きに捉えて一歩を踏み出す同種のラストにもかかわらず、テーマの根が深い分だけ、予定調和の浅い結論と取られかねないから。個人的な結論でも普遍性が出せた『そして~』のようなわけにはいかない。
 それでも、本作を見ると「メッセージを伝えるためには、技術がいかに大切か!」がよく分かる。冒頭から、シネスコ画面の力強さと編集のリズムに圧倒される。これがデビュー3作目となる女性監督ロレーヌ・レヴィ。注目していきたい才能である。★★★★☆(外山真也)

 【データ】
監督:ロレーヌ・レヴィ
出演:エマニュエル・ドゥヴォス、パスカル・エルベ、ジュール・シトリュク
10月19日(土)から全国順次公開
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外山真也のプロフィル
 とやま・しんや 映画ライター&時々編集者。1966年愛知県出身。学生時代はヨーロッパ映画を中心に見ていたが、情報誌の仕事が長かったため、今は洋の東西を問わず、単館系からハリウッドまで幅広くが信条。主な執筆媒体:月刊TVfan、日本映画navi、ぴあ各誌。
(共同通信)

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外山 真也