『ソーシャル・キャピタルと地域の力』 県民特性に基づく施策問う


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『ソーシャル・キャピタルと地域の力-沖縄から考える健康と長寿』イチロー・カワチ、等々力英美編 日本評論社・4700円

 地域力という言葉が、東日本大震災の復興の折に、重要性が認識された。地域力という言葉は、行政・学術の側面から指摘されているが、明確な定義がなされてない。一方、本書のタイトルの一部をなすソーシャル・キャピタルは、より理論的観点から地域力を含意し説明する。

 本書では、ソーシャル・キャピタルの視点から、沖縄の中高年世代の健康・長寿や生活習慣病等の問題と、その解決に向けた施策を示唆している。具体的には3部構成からなる。
 まず、序章では「高齢社会におけるソーシャル・キャピタル」とし、この分野の草分け的存在でハーバード大学のイチロー・カワチ氏が沖縄におけるソーシャル・キャピタルの特徴について考察している。氏は「地域疫学国際ワークショップin沖縄」に、共同執筆者らと参画し、沖縄の地域的特性を熟知している。その提起される沖縄モデルは、日本をはじめ世界への発信が本書から読み取れる。
 第1部は、「高齢者社会を乗り切る地域の力」となっており、4章からなる。各章の実証的研究は、ソーシャル・キャピタルの視点に立っており、これらの成果を基に健康・長寿の実現がなされれば、行政、産業経済、健康、教育などのあらゆる活動の活性化を促すことを示している。
 第2部は、「沖縄のソーシャル・キャピタルと健康・長寿」として、7章からなる。ソーシャル・キャピタルの視点から、沖縄の社会的経済要因、男性の平均寿命、疾病特性などの考察がなされている。地域住民のネットワークが、地域活動の活性化につながることを、各章から読み取ることができる。
 ところで、沖縄県は喫緊の課題として、健康長寿おきなわ復活のために、社会環境整備を実行し、長寿・健康の再生を図ろうとしている。行政関係者には、沖縄県民の特性を基盤に据えたユイマール精神にもつながるソーシャル・キャピタルの視点からの施策を期待すると、暗に問い掛けていると私には思える書である。
 (富永大介・琉球大学理事、副学長)
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 Ichiro Kawachi ハーバード大学公衆衛生大学院教授
 とどりき・ひでみ 琉球大学大学院医学研究科准教授