『忘却のしかた、記憶のしかた』 歴史操作、事例的に示す


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 本書は、数年にわたって発表された論文を、本人の新しい解題つきで年代別に(EHノーマンに関する第1章は別)1冊の本にまとめたものである。ノーマンは共産主義の容疑で非難され、後に自殺したカナダ大使で、著者が最も敬愛する日本研究者である。それで、本書は著者の研究の総括といえる。

 本書のメーン・テーマは、戦争と「歴史」が「記憶」としていかに操作されて社会に広まるか、そして過去から何を選択して記憶することが、その他を忘れたり、意図的に無視することと、いかに分かちがたいのかを事例的に示すことである。
 例えば、1945年にGHQが始めた日本占領を、イラク侵略後に予想される状況の指標としたことである。それは大きな間違いであって、むしろ、それは1931年の満州侵略と、かいらい国家・満州の創設の方が相似している。
 サンフランシスコ体制は心理的にも構造的にも日本をアメリカに従属させた。米軍と基地のプレゼンスを認めることが、アメリカの庇護と国家主権回復のための不可避的な代償だった。そして日本における米軍の存在は、日本の再軍備を、現地で抑止する力を確立したという指摘は鋭い。さらに、より巧妙な方法は、日本の軍備計画をアメリカの重要戦略に従属させ、「アメリカの長期的支配をたしかなもの」にしたことだった。
 1951年の安保条約は、日本人にとって平和が国家分裂という代償を伴うものであった。沖縄の本土からの分離は「沖縄の社会と経済を、アジアにおけるアメリカの核戦略のグロテスクな付属物にしてしまった」と批判する。
 以上のダワーの批判は沖縄の人々の心に強く響くだろう。それにもかかわらず、これらの鋭い批判に物足りなさを感じるのもまた事実だろう。それは彼の批判から、沖縄に対する日米の差別意識が全く欠けているからである。それこそ沖縄問題の解決を妨げている根本原因なのだ。
 (宮里政玄・沖縄対外問題研究会顧問)
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 JOHN・W・DOWER 1938年米ロードアイランド州生まれ、マサチューセッツ工科大名誉教授。専門は日本近代史・日米関係史。著書にピュリツァー賞受賞作「敗北を抱きしめて」、「昭和」など

忘却のしかた、記憶のしかた――日本・アメリカ・戦争
ジョン・W.ダワー
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