『女っ気なし』 主人公の冴えないキャラクターが魅力


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 フランスでエリック・ロメールやジャック・ロジエの後継者と目されている新鋭ギヨーム・ブラックの中編(58分)で、短編『遭難者』(25分)とセットで公開される。確かに、海辺の保養地を舞台に何気ない日常やバカンスの模様を空気感ごとすくい取る作風は、ロジエの『オルエットの方へ』やロメールの諸作品を彷彿させるが、さすがに買いかぶり過ぎだろう。それでも、ホン・サンスが評価されるならこれだって評価されていい。

 主人公は、ちょっと太めで髪も薄くなりかけている地元の青年シルヴァン。一人身の彼が、パリからバカンスに来た美しい母娘と過ごす夏の日々が描かれる。本作の魅力は、シルヴァンの冴えないキャラクターに負うところが大きい。寅さんのような個性はないが、だからこそ、男性の観客は彼に自己投影し、女性は恐らく母性本能をくすぐられるはずである。
 このシルヴァン、短編の方にも登場するのだが、彼と短い時間を共有した劇中の人物たちもまた、最後には人生におけるささやかな何か、前へ進むきっかけのようなものを手にすることになる。だからブラック監督は彼に、ラストでとっておきのご褒美を用意したのだと思う。きっと、これからも彼を主人公にしたシリーズを撮り続けてくれるに違いない。★★★★☆(外山真也)

 【データ】
監督:ギヨーム・ブラック
出演:ヴァンサン・マケーニュ、ロール・カラミー、コンスタンス・ルソー
11月2日(土)から東京・渋谷のユーロスペース、全国順次公開
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外山真也のプロフィル
 とやま・しんや 映画ライター&時々編集者。1966年愛知県出身。学生時代はヨーロッパ映画を中心に見ていたが、情報誌の仕事が長かったため、今は洋の東西を問わず、単館系からハリウッドまで幅広くが信条。主な執筆媒体:月刊TVfan、日本映画navi、ぴあ各誌。
(共同通信)

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外山 真也