『ばしゃ馬さんとビッグマウス』 サクセス・ストーリーではないのに後味が爽快


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 独特のユーモアとロリコン・テーストで人気の吉田恵輔監督が、3年ぶりに放つ新作だ。『純喫茶磯辺』でも組んだ麻生久美子と、関ジャニ∞の安田章大が、脚本家を目指す正反対の性格の男女=ストイックに頑張るものの芽が出ない“ばしゃ馬さん”と、脚本を書いたことがない自称「もうすぐ天才脚本家」の“ビッグマウス”をそれぞれ演じる。

 吉田監督は、東京ビジュアルアーツの同級生・深川栄洋が職人的に安定感のある作品を量産するのとは対照的に、常に自分自身を主人公に投影させる作家タイプの監督だ。強烈な個性を発しながらも地に足の着いた等身大の世界観に定評がある。だが今回は、圧倒的な傑作だった前作『さんかく』でロリコン路線をやり尽くしたからか、それとも本人が大人になったせいなのか、吉田カラーが薄まって、いつになく万人受けする内容に仕上がっている。
 テーマは、一度抱いてしまった夢とどう向き合い、どう決着をつけるのか。それを体現する主人公2人には、監督自身の下積み経験が反映されていて、説得力十分だ。夢がかなう人間なんて、ほんの一握り。だから、本作はサクセス・ストーリーではない。にもかかわらず後味が爽快なのは、2人が監督の“分身”であり、欠点だらけの彼らが大きな愛情を持って描かれているからに他ならない。★★★★☆(外山真也)

 【データ】
監督・脚本:吉田恵輔
脚本:仁志原了
出演:麻生久美子、安田章大
11月2日(土)から全国公開
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外山真也のプロフィル
 とやま・しんや 映画ライター&時々編集者。1966年愛知県出身。学生時代はヨーロッパ映画を中心に見ていたが、情報誌の仕事が長かったため、今は洋の東西を問わず、単館系からハリウッドまで幅広くが信条。主な執筆媒体:月刊TVfan、日本映画navi、ぴあ各誌。
(共同通信)

(C)2013「ばしゃ馬さんとビッグマウス」製作委員会
外山 真也