『父の秘密』 研ぎ澄まされた刃物のような傑作


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 昨年のカンヌ国際映画祭で“ある視点”部門のグランプリに輝いたメキシコ映画。事故で最愛の妻を亡くしたロベルトと娘のアレハンドラは、逃げるようにメキシコ市に移り住む。失意のロベルトは、娘が新しい高校で執拗なイジメに合っていることに気付かない。娘はそんな父を気遣い、家では平常心を装うのだった…。

 この、ロベルトの終始一貫した“ダメ人間”ぶり、“父親失格”ぶりが本作のリアリティーを担保する。だから、我々観客は衝撃のラストにも納得せざるを得ないし、因果関係や設定がほとんど説明されないのにドラマが成立するのも、そのお陰だ。
 監督は、これが長編2作目となる新鋭マイケル・フランコ。徹底した悪意とシンプルさは、ミヒャエル・ハネケの映画を思わせる。シンプルさだけなら、むしろハネケ以上だろう。カメラは据え置かれただけのFIX中心なのに、画面は情報量と運動性に満ちている。理由は、頻出する“自動車”と“海”。2つの映画的アイテムを駆使しているためだ。その代わりに、映画的でないものは極力排除されている。例えば言葉による説明、人物の内面描写、効果音やBGM、声高なメッセージ…さらには過度な演出やカメラワークさえも。まさに、研ぎ澄まされた刃物のような傑作である。★★★★★(外山真也)

 【データ】
監督・脚本:マイケル・フランコ
出演:テッサ・イア、ヘルナン・メンドーサ
11月2日(土)から東京・渋谷のユーロスペース、全国順次公開
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
外山真也のプロフィル
 とやま・しんや 映画ライター&時々編集者。1966年愛知県出身。学生時代はヨーロッパ映画を中心に見ていたが、情報誌の仕事が長かったため、今は洋の東西を問わず、単館系からハリウッドまで幅広くが信条。主な執筆媒体:月刊TVfan、日本映画navi、ぴあ各誌。
(共同通信)

Despues de Lucia(C)2012.
外山 真也