『とぅばらーま哀歌』 “大和嫁”魅力的に描く


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『とぅばらーま哀歌 農業小説短編集』国梓としひで著 ボーダーインク・1365円

とぅばらーま哀歌―農業小説短編集

 「爆音、轟く」で第33回新沖縄文学賞を受賞した作者は、『南涛文学』25号に「とぅばらーま哀歌」、26号「ミバエ」27号「バッパーの反逆」28号「洞窟(がま)の湧き水」と立て続けに作品発表のち、今回『とぅばらーま哀歌』として上梓(じょうし)した。

 改めて読んで、感じたのは、全編が農業というテーマに貫かれていることだ。作品のどれもが我が国が抱える切実な“農業問題”である。
 これは作者の、琉球大学農学部卒業後、総理府沖縄開発庁、農林水産庁、農地整備公団、内閣府沖縄総合事務局を経た略歴からもうかがえる。そういうことから表題作である『とぅばらーま哀歌』が最も成功している。
 小説の舞台は、新石垣空港近くカラ岳だけを過ぎ、於茂登山(おもとやま)を左に眺める伊野田集落から見晴らしのいい観光ポストの玉取崎(たまとりざき)展望台に至るまでに在(あ)る牧場というところか。
 主人公である、大学出の都会育ちである瑠璃(るり)子は石垣島を旅行中たまたまといってもいい“とぅばらーま大会”で2歳年上の地元の若者と知り合い、両親の反対を押し切って、強引に結婚する。初めは石垣島のすべてが新鮮に映る。それから12年の歳月が流れる。その間、知り合い牧場主の保証人になって借金を背負い込んだり、4歳の息子を事故で亡くしたりで、次第に石垣島にいることが鬱陶(うっとう)しくさえ思えてならない日々。
 そんな或(あ)る日のこと、すらっとした長身で関西人の男が牧場を訪れる。何とこれが高校のとき同じバスケット部で憧れの同級生。道頓堀川沿いを肩寄せ歩いた青春時代の、篠原との17年振りの再会…。
 ところが篠原は不動産業を営んでいた。
 あとは、二転三転する垢抜(あかぬ)けした素晴らしいラブストーリーを楽しんでもらうしかないが、沖縄に嫁いだ大和(やまと)嫁(よめ)たち、あるいは大和女性を嫁にした島々に住む男たちにも勇気と希望を与えずにはおかないものがある。“大和嫁”をこんなにも魅力的に描ききった作者の力量を褒(ほ)めたい。
(竹本真雄・小説家)
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 くにし・としひで 1949年大阪市生まれ、沖縄市(旧コザ)出身。沖縄開発庁、農林水産省、農用地整備公団、沖縄総合事務局に勤務し、2009年退職。「爆音、轟く」で第33回新沖縄文学賞。南涛文学会同人。