『琉球古瓦の研究』 研究の深化で琉球史解明


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『琉球古瓦の研究』上原靜著 榕樹書林・14000円

 著者の瓦研究の発端は、「首里城跡西のアザナ地区出土の明系瓦とその推移」1994年である。この論考によると、首里城西のアザナ地区出土の古瓦・明系瓦の出土比率では、明系瓦が95%と他を圧倒していることや焼成、色調、胎土をはじめとして、軒丸瓦、軒平瓦の文様、形、文様の細分化、文様区径、谷深さ、垂れ長、周辺幅、瓦の深さ、瓦当文様、色調全長、制作技法など詳細に分類し、編年が行われている。

 以後、著者は沖縄諸島出土の高麗系瓦、大和系瓦、明系瓦などについて前述の考古学的な手法で詳細な検討を加え、琉球瓦に関する論考を次々に発表し本書で総括している。
 本書の第1章・琉球諸島出土の中近世瓦の研究史、第2章・グスク時代の瓦では、高麗系瓦と大和系瓦の出土状況とその特徴について、第3章・琉球王国時代の瓦では瓦生産の画期と展開、種類と編年、宮古、八重山諸島、久米島における明系瓦の特徴を述べている。中国からみた明系瓦、輝緑岩製石棺に見る屋根瓦、中国浙江省の歴史的建造物にみる屋瓦、第4章では沖縄諸島出土の近現代瓦についても検討が加えられている。
 第2章の、首里城をはじめ56遺跡から出土した総計3万6000点余の瓦を対象に類型の分布や造瓦技術の観点から分析が行われ、朝鮮半島出土の高麗瓦や日本本土の中世瓦との比較も行っている。瓦が多く出土する首里城跡、浦添城跡、浦添ようどれ、崎山御嶽遺跡、勝連城跡は瓦建物が想定されるが、それ以外の出土地は、瓦建物ではなく、後世における遺物の拡散の可能性とみている。
 著者の論考は、絶え間ない新資料の追加とともに、1994年から現在に至るまで沖縄出土の瓦の研究は深化し続けて、最終目標と掲げる瓦生産の消長、流通、生産体制の解明に近づきつつあると言って良いだろう。筆者の研究の基本は、考古学の基本である瓦の制作技法・形・焼成など細部にわたって観察し、その特徴を捉えて細分化することによって編年に至っており、瓦研究を通して琉球史の解明にも大きく貢献できるものと考える。
(知念勇・沖縄考古学会会長)
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 うえはら・しずか 1952年那覇市生まれ。県教育庁文化課勤務を経て、2008年から沖縄国際大学総合文化学部教授。01年に沖縄文化協会賞(比嘉春潮賞)受賞。