貘の詩世界 軽妙な語りで 立川志ぃさー


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山之口貘の東京暮らしを軽妙な語りで描き出す立川志ぃさー=7日、沖縄市民小劇場あしびなー

 うちな~噺(はなし)家・立川志ぃさーの改名記念公演「うちなー妄想見聞録」(作、演出・立川志ぃさー、舞台監督・猪俣孝之)が7日、沖縄市民小劇場あしびなーであった。東京で多くの詩を書いた詩人・山之口貘と、生活苦のため貘の居宅に泥棒に入ったウチナーンチュの男との対話を軸に描く物語。諧謔(かいぎゃく)と哀感の漂う貘の詩世界を、軽妙な語りで高座に反映した。東京を拠点に日本人に対し、日本語で訴えかける表現を模索しつつ、軸足は沖縄に置き続けた貘と志ぃさー。2人の姿が重なり合うような高座を繰り広げた。

 物語は男が貘の居候先に忍び込む場面で始まる。貘と対面し、居直ろうとする男に対し、貘は「まだ何も取っていないあなたが泥棒だということは証明できない。詩の朗読を聞きに来たということにすれば、あなたはそのまま帰ることができる」と持ちかける。貘は男がウチナーンチュであることを察していた。「本当に琉球人あらんな」と問われて「あらんて言っとーやしぇ」と応えるテンポのいい掛け合いなど、志ぃさー節もちりばめる。
 随所で「会話」「妹へ送る手紙」など、貘の詩の朗読も挟み込む。貧乏暮らしの中でも、宇宙を見渡すような広い視野で書かれた詩の数々。一つの詩を仕上げるまでに原稿を100回以上も推敲(すいこう)したという逸話が紹介されるが、それよりも甲斐(かい)性のなさを妻の静江に詰問されたり、娘の泉に優しい言葉をかけたりする生活の断片と詩の落差が、聞く者の笑いを誘う。
 2カ月の予定で始めた間借り生活。高村光太郎賞を受けるなど脚光を浴びても暮らしぶりは変わらず、貧乏生活の中から詩を、人の生きる様を見つめた貘を象徴するように、詩「自己紹介」で締めくくった。
 10月に藤木勇人から芸名を改めた立川志ぃさー。笑築過激団、りんけんバンドを経て93年、立川志の輔を師事して独立。21年目の今年、52歳にして芸道の再スタートを切った。幕切れ後「東京に出て、東京には東京だけの沖縄の歴史があることに驚いた」と語った志ぃさー。東京で詩を書き続けた貘に激しく共鳴する心の内を投影した公演は、その詩とリンクする普遍性を獲得していた。(宮城隆尋)