『職業としての観光 沖縄ツーリスト55年編』 観光戦略の指南書


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『職業としての観光 沖縄ツーリスト55年編』吉崎誠二著 芙蓉書房出版・1900円

 本書は、県内屈指の観光企業・沖縄ツーリストという「タイムマシン」に乗って、沖縄の観光産業の生成過程をたどる時間旅行を楽しめる「観光経済の戦略指南」の書である。
 沖縄戦の廃虚から復興する1950年代、6人の若者によって創設された沖縄ツーリストは、沖縄経済人の戦後史そのものだ。

 戦禍と敗戦、占領と米軍統治、その後の本土復帰、海洋博不況、沖縄ブーム、米同時多発テロ、新型肺炎騒動、JAL破綻など航空再編、東日本大震災、尖閣問題と、沖縄観光は苦難と試練の連続である。
 その苦境をともに同社の社長となる東良恒、宮里政欣の両氏が旅行業にかける情熱と開拓者精神で「ピンチをチャンス」に変えていく。その記述は大河ドラマのように引き付ける。
 米軍統治下の沖縄への渡航許可のため、「身元引受人」を担い、慰霊参拝団の定着(1958年)に励み、定期観光バス事業を仕掛け(68年)、沖縄初のレンタカー事業(70年)に先鞭もつけ、海外出身者を積極採用し、ダイバーシティ経営へつなげ(76年)、パプアニューギニアなど観光未開拓地へのチャーター便企画(95年)、ダイビングの観光商品化(2002年)で再訪客増加を図り、モノレールとレンタカーの融合を図る駅前大型商業施設内への営業所開設(05年)と挑戦は続く。ネット時代に対応した旅行コールセンターの設立(05年)、北海道のツアー会社設立による県外展開(08年)、旅行シンクタンク「OTSサービス経営研究所」の設立(10年)など、「変化に適応し、進化し続ける」ことで活路を拓く沖縄観光のダイナミックな動きが、随所で紹介されている。
 著者の吉崎氏は「本土に負けない沖縄企業」などの著書もあり、沖縄経済の調査研究でも成果を上げる新進気鋭の経営コンサルタント、経済アナリストだ。「沖縄ツーリスト55年編」という副題が付くが、一企業の社史の域を超え、沖縄観光の生成と成長過程、課題、将来展望までを概観できる。絶好の入門書であり解説書である。
 (前泊博盛・沖縄国際大学経済学部教授)
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 よしざき・せいじ 1971年生まれ。経営コンサルタントなどを経て、ディー・サイン取締役。沖縄大学地域研究所特別研究員。著書に「本土に負けない沖縄企業」など多数。

職業としての観光
職業としての観光

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吉崎 誠二
芙蓉書房出版
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