『せんせい記者日記』 「現場」から学校描く


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『せんせい記者日記』小坂真希著 信濃毎日新聞社・1050円

 かつて自分にも、学校に通っていた時期があった。周囲との距離感に戸惑い、修学旅行に浮かれ、ふてぶてしい態度を叱られた日々があった。そんな当時を思い出しながら、くすぐったさとともに本書を読み終えて、ふと思った。些細な日常に揺れていたあのころの気持ちを、日々目にしていた光景を、私はなぜ忘れてしまっていたのだろうと。

 本書は、信濃毎日新聞の記者が市立相森(おおもり)中学校に「研修生」として潜り込み、奮闘した日々を記録したものである。記者という外部の観察者としてではなく、先生という当事者として、学校を内側から描いている点がユニークであり、また魅力でもある。生徒たちとの何げないやりとりの中に、思春期にある中学生の繊細な姿が生々しく浮かび上がってくる。さらに先生たちの言動の一つ一つからは「先生」とひとくくりで語られることの多い教育者たちの人としての個性が読み取れる。
 初めて担任を受け持った教師は入学式前夜に「緊張で眠れなかった」と告白する。あるベテランの教師は「100点だったと思える叱り方なんてない」と、終わりのない試行錯誤を吐露する。授業づくりの難しさ、スケジューリングの大変さ、膨大な雑務と夜遅くまで続く打ち合わせ。教師の目線で捉えた学校という日常の何と慌ただしく悩ましいことか。そう、先生たちだって生身の人間なのだ。
 いじめ問題や体罰がメディアをにぎわす今日にあって、私たちは肝心の「現場」を忘れてはいないだろうか? 学校という日常の中にいる生徒や教師一人一人の存在を置き去りにしてはいないだろうか? 社会、学校、マスコミ、それぞれがばらばらのところで、自分よがりな議論に終始してはいないだろうか?
 「最近の若者は」「教師の質が」と、遠い所から論理による解決を探る前に、現場に歩み寄り、身近にある現実の中から解決への糸口をつかみ取っていくしかない。「せんせい記者日記」のささやかな試みの中には、マスコミや行政、社会全体がこれから目指すべき方向性とヒントが確かに示されている。
 (中村安希・ノンフィクション作家)
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 こさか・まき 1986年青森県八戸市生まれ。早稲田大学教育学部卒。中学1種、高校1種の国語教員免許取得。2008年4月、信濃毎日新聞社入社。

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