『事例で深めるソーシャルワーク実習』 実習の指針を例示


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『事例で深めるソーシャルワーク実習』川村隆彦編 中央法規出版・2400円+税

事例で深めるソーシャルワーク実習

 私はかつて本書の編者である川村隆彦氏と共に『ソーシャルワーク倫理ハンドブック』を作成したことがある。
 以来、日本の風土にソーシャルワークは根付くのかと模索してきた一人である。
 ソーシャルワークとは、困難な状況にある人々に寄り添い、課題を共有しつつ、共に生きていける社会をつくりあげる仕事である。

 現実の社会を見れば、こうした役割を担う専門家や機関は切実に求められているはずである。本書は、ソーシャルワーカー養成の最も重要な実習教育のテキストである。
 本書の特色の一つは、実習の主人公である学生の率直な思いを取り上げ、そこでの事例内容から実習の指針やソーシャルワークの原則を具体的に示しているところにある。
 「みる・きく・体験する」「感じる・考える・表現する」という実習の基本を基に、気づきをまとめ、原則へと至るプロセスが示されている。
 まず何よりも利用者、職員と共に体験し、そこから「自問、自答、自証」という三つの側面から考察を進めていくこと。
 さらに実習には「職場実習」「職種実習」「ソーシャルワーク実習」の三つの段階があり、職場の実態とそこでの専門性を知り、その上で、総合的な対応へと進む流れも示されている。
 また、チェックリスト、エコマップ、報告書の作成についても説明がされている。その上で「もし1個のレモンしかなかったら、そこから何を創るか?」という設問が投げ掛けられている。
 実習現場の条件が悪かったり、限定されたりする現場の中で、いかにおいしいジュースを絞り出せるかが重要だと本書は訴えている。
 現実はワーカーにとっても苦しく困難な状況が多いに違いない。その中からいかに可能性を見つけ、新しい状況を絞り出せるのか。7人の編者の思いが伝わってくる場面である。
 ソーシャルワーク養成への着実な基礎が築かれたことを喜びたい。(加藤彰彦・沖縄大学学長)
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 かわむら・たかひこ 神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部准教授。2000年に城西国際大学助教授、04年に同大教授を歴任。07年4月から現職。

※注:川村隆彦の「隆」は、「生」の上に「一」