『あなたを抱きしめる日まで』 バディ・ムービーの面白さ


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 実話に基づくイギリス映画で、ジュディ・デンチ扮するアイルランド人の主婦フィロミナが、50年前に修道院によって引き離された息子を捜す話だ。原作は、彼女の道行きを記事にするため同行した元記者マーティン・シックススミスのノンフィクション。アイルランドの女子修道院の実態が暴かれるため、社会派映画の側面も持つ。

 だが、この映画の最大の魅力は、フィロミナとマーティンのやりとりの妙にある。言うなれば、生活環境も価値観も全く異なる凸凹コンビの珍道中、またはバディ・ムービーの面白さなのだ。
 そして、それは“映画の本質”に触れる問題でもある。原作はフィロミナの息子の視点で、彼の足跡をたどる形式をとっているという。ということは、彼はなぜ、この映画のラストで感動をもたらすある行動をとったのか? その理由にスポットを当てて書かれていることになる。けれども、映画ではその理由は棚上げにされる。つまり、ノンフィクションとしては欠陥品というわけ。
 でも、それでいいのだ。これは映画だから。監督のスティーヴン・フリアーズは、映画が人間の内面や行動の動機を描くメディアでないことに自覚的だ。だからこの企画に引かれた理由を、こう語っている。「これは、ある女性の悲劇の物語であると同時に、ロマンティック・コメディーでもある。そのバランスが絶妙なんだ」。★★★★☆(外山真也)

 【データ】
監督:スティーヴン・フリアーズ
脚本・出演:スティーヴ・クーガン
主演:ジュディ・デンチ
3月15日(土)から全国公開
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外山真也のプロフィル
 とやま・しんや 映画ライター&時々編集者。1966年愛知県出身。学生時代はヨーロッパ映画を中心に見ていたが、情報誌の仕事が長かったため、今は洋の東西を問わず、単館系からハリウッドまで幅広くが信条。主な執筆媒体:月刊TVfan、日本映画navi、ぴあ各誌。
(共同通信)

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外山真也