『オール・イズ・ロスト ~最後の手紙~』 登場人物は1人、シンプル・イズ・ベスト


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 まさにシンプル・イズ・ベスト。でも、その裏には緻密な計算が潜んでいる。登場人物は1人だけ。年齢も職業も名前すら最後まで分からない。邦題には「最後の手紙」という副題が付いているけど、その文面も想像するしかない。ことによると冒頭に唯一入る主人公のモノローグがそうかもしれないが、作り手は「どちらでもかまわない」と突き放すばかり。むしろ具体的でないことが、重要なのだ。

 主人公も同様。ヨットを持っているくらいだからそれなりに裕福なのだろうが、特別な能力もなければ、サバイバルのスキルに長けているわけでもない。つまり、彼は我々観客自身ということ。彼が歯を食いしばれば我々も食いしばり、その孤独や落胆、希望を共有する。
 インド洋を単独航海中、漂流物がぶつかってヨットに横穴が空き、航海装置など電気機器が水浸しで使えなくなる。だが、それは災難の始まりに過ぎなかった…。『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』を彷彿させるが、CGに頼っていない本作は、似て非なるもの。全編が海上で撮影され、水中カメラによる映像も最小限にしか登場しない。
 それでも映画が成立することを、本作は教えてくれる。否、むしろ、だからこそ映画の醍醐味に満ちた作品に成り得たと言うべきだろう。ラストにも監督のセンスが光る。長編2作目、日本初お目見えのJ.C.チャンダー監督。注目していきたい才能である。★★★★★(外山真也)

 【データ】
監督・脚本:J・C・チャンダー
出演:ロバート・レッドフォード
3月14日(金)から全国公開
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外山真也のプロフィル
 とやま・しんや 映画ライター&時々編集者。1966年愛知県出身。学生時代はヨーロッパ映画を中心に見ていたが、情報誌の仕事が長かったため、今は洋の東西を問わず、単館系からハリウッドまで幅広くが信条。主な執筆媒体:月刊TVfan、日本映画navi、ぴあ各誌。
(共同通信)

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外山真也