『歴史のなかの久高島』 調査研究35年以上の集大成


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『歴史のなかの久高島 家・門中と祭祀世界』赤嶺政信著 慶友社・9500円+税

 沖縄の民俗研究者である赤嶺政信氏が、その35年以上にわたる久高島での調査研究の集大成を博士論文としてまとめ、それを基に本書を出版した。
 その最初の論文は、1980年に久高島の門中についてまとめた修士論文であった。きちんとした実地調査に基づいた実証的な論文として評価され、それは、本書にも生かされている。

私事で恐縮だが、その時、評者も一緒に修士論文を書いており、赤嶺さんの下宿のこたつで修士論文作成の悩みを語り合ったことを昨日のように思い出す。
 あれから、30有余年にわたって赤嶺さんは、久高島にこだわってきた。久高島は、民俗学的にも沖縄の中で、ある意味特異な存在である。それを、第一部「久高島の家・門中と祭祀世界」、第二部「久高島の祭祀と国家制度」に分けて多方面から検討している。
 沖縄の家(ヤー)を考えるには、土地整理事業が行われた明治32年以前まで存在した地割制度の存在は大きい。日本本土の家(イエ)は、近世から屋敷、屋敷地、土地などの家産を家が所有し、それを一子相続によって継承してきた。
 地割制の跡が残る畑地がまだ見ることのできる久高島では、かつて男が行う漁業が中心であったため、農業のウエートが低く、農業は女子労働であり、耕地からの生産物は貢租の対象にならなかったなどの特徴を有し、家の永続的な継承あるいは世代を超えた家筋の形成が弱かった。その特徴が、祖先祭祀にも表れ、近年まで祖先を表す位牌もなかったという。
 もう一つの大きな特徴として、久高島は琉球王国時代まで国家的聖地だったことが挙げられる。神女就任儀礼としてのイザイホーはあまりに有名である。8月行事も、他の地域とは異なった特殊性を持っている。その理由を王国時代に久高島で行われた国家祭祀との関連で読み解こうとしている点は、長年久高島の人々を見続け、民俗学を考えてきた赤嶺さんだからこそ導き出せた深い考察だと評価できる。
 本書は、久高島を詳しく記述した、貴重で重厚な研究書だといえよう。(小熊誠・神奈川大学教授)
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 あかみね・まさのぶ 1954年、南風原町生まれ。筑波大学大学院修士課程修了。琉球大学法文学部教授。文学博士。専門は民俗学。主な著書に「シマの見る夢-おきなわ民俗学散歩-」など多数。

歴史のなかの久高島: 家・門中と祭祀世界 (考古民俗叢書)
赤嶺 政信
慶友社
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