『海よ里よ、いつの日に還る』 記録する者の執念、結実


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『海よ里よ、いつの日に還る 東日本大震災3年目の記録』寺島英弥著 明石書店・1890円

 本書の著者は河北新報編集委員。「悲から生をつむぐ」(講談社)、「東日本大震災 希望の種をまく人びと」(明石書店)に続き、大震災、福島第1原発事故後の東北各地を、あるいは全国各地に避難した人たちを徹底取材したブログ連載ルポの第3作となる。
 ルポというと、どこか小難しい、あるいは悪者を糾弾するような印象を抱く向きもあろうが、本書も含めた3作は赴きを異にする。文体が柔らかく、優しいのだ。

その理由は著者の筆致にある。家を、家族や友人を奪われた人びとに寄り添い、彼らの話を漏らさず記録するという使命感が背景にある。どんな読者層にも分かりやすいよう、努めて優しい言葉を選び、つづったからだと想像する。
 「地方紙記者の取材は、1本の記事を書いて終わりではなく、そこからが始まりです(中略)『忘却と風化、風評』の壁を乗り越え、続報を伝えることが、震災4年目も変わらぬ、われわれの役目です」(『はじめに』より)という言葉に、著者の意気込みが体現されている。かつて著者と会った際、「記者という仕事は、『記録する者』なのです」という言葉を聞いた。本書は「記録する者」の執念が結実したものだ。
 私は東京に住んでいる。本紙と違い、在京大手メディアの震災関連ニュースは激減した。これに比例する形で、震災と東北の人びとへの関心も着実に薄れている。来る2020年東京五輪に向けて「もう復興は終わったはず」と勝手に決め込み、世間は浮き足だっている。こうした風潮にあらがうため、著者は今後も取材を続けるはずだ。
 先に本書の筆致が優しいと記した。だが、登場するごく普通の人びとが発する言葉の一つ一つは、重く、鋭い、復興の足取りが遅く、打ちのめされているからだ。著者はこれらを漏らさず記録した。だからこそ、優しい筆致と、厳しい現実に直面する人間が発した言葉の間に絶妙のバランスが醸成され、東京の私にも突き刺さり、響くのだ。東北だけでなく、全国に届けなければならない作品だ。(相場英雄・作家)
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 てらしま・ひでや 1957年、福島県相馬市生まれ。河北新報社編集委員。

海よ里よ、いつの日に還る――東日本大震災3年目の記録
寺島英弥
明石書店
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