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これは一人の女性のトラウマ(心的外傷)を、一人の写真家が映像化した《痛みの記憶》の集大成―。と、まとめてしまえそうな気がしていたのだが、それではなんだか言葉が足りない。ページをめくれば、痛々しいまでの悲しいトラウマが具現化されているのだけど、そこには場違いなまでの生命力が同居している。そんな不思議な写真集だ。
アーティスト吉山森花の夢の数々は、どれも重く、心の傷をえぐり出す悪夢の世界だ。親との関係や、世間からの孤立感、ある種の強迫観念。反発も共感も含めて、見る者の心をかき乱してくる。人によっては、すぐに拒絶反応を起こすかもしれない。でもそういう人ほどよく見てほしい。少なくとも僕には、過去のトラウマを受け止め、その上に己の両足ですくっと立って未来を見詰める森花の前向きな意思が感じ取れる。
今となっては想像でしかないけれど、森花が一人で自分の心の傷をさらけ出していたら、思考はグルグルと同じところを回り始め、負のスパイラルに落ち込んでしまい、それこそ陰鬱(いんうつ)な仕上がりになっていたように思えるのだ。
でもそんな心配はすでに意味がない。写真家の石川真生が、森花の夢を肯定的に受け止め、写真集として形にしたのだから。石川は、森花のそういう芯の強さを証明しようと思い、森花もそれに応えた結果がこの写真集なのかと、僕は想像を巡らせる。
思い出すまでもなく、僕の知っている石川の写真はいつもそうだった。いとおしいと思った世界に飛び込んで、そこに同化しながらシャッターを押す。例えが悪いけど、たぶん石川は、対象がごみの山だとしても、その中にキラリと光る宝物の存在を信じてカメラを向け続けるのだろう。そして、そういった信念の前にだけ姿を見せる宝物が、世の中にはあると思うのだ。
そんな信念を支えているのは、まぎれもなく吉山森花と石川真生の生命力だ。そしてその生命力には《癒やし》という言葉が安直に思えるほどのパワーが秘められているのだ。(真喜屋力・映画監督)
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いしかわ・まお 1953年沖縄生まれ。写真家。2011年に「FENCES,OKINAWA」でさがみはら写真賞を受賞。
よしやま・もりか 1989年、沖縄出身。アーティスト。