『「合同歌集 花ゆうな」第20集』 会員の飽くなき向学心


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『「合同歌集 花ゆうな」第20集』花ゆうな短歌会編 花ゆうな短歌会・2000円

 カルチャー教室の受講生を中心に結成された短歌会の合同歌集。25首ずつ40人の作品が並ぶ。1年に1冊で20冊目、会員の飽くなき向学心と主宰・比嘉美智子氏の指導力のたまものだ。

 「だれも居ぬコマカ島なる無人島ひき寄せたくなる白き砂浜/米吉正子」
 「だれも居ぬ」「無人島」の重なりは推敲(すいこう)の余地があるが「ひき寄せたくなる」という素朴な発語が力を持っている。このように沖縄の自然を大ぶりに表現した歌をどんどん読みたい。
 「三時間君との語らひ一条の光となりて吾が道照らす/隈元芙美子」
 「よく伸びし背丈を言へば孫娘膨らみてくる胸を張りたり/神里直子」
 亡くなる前の夫を詠んだ隈元作はシンプルでまぶしい相聞。神里は孫の成長を的確に表現。
 「洗い物干す人の上(え)の青き空モスラの如き輸送機の飛ぶ/佐久本成」
 「言争ひ半泣きとなる異国語の夜半の声未だ少年の声/大城京子」
 佐久本作、オスプレイを敵か味方か分からない怪獣「モスラ」に例えた妙。大城作、外国人やハーフの少年を詠む歌は最近では割と珍しく、良い着眼点だ。
 本書の歌の多くは、実景を率直な言葉で詠む。戦後沖縄短歌のスタンダードな詠(うた)いぶりであり、安心して読める。その中で次の異色の3首に注目した。
 「風の刑のがれし誤差を耀かせ眼窩にし吹く散水の虹/津野美祢」
 「夕闇は夜の蛇口よりあふれ出で部屋を押し出す闇の海へと/銘苅真弓」
 「ゼウスさま基地を丸ごと引き受けるアトランティスをどうぞ地上に/永吉京子」
 前衛短歌に近い美を持つ津野作。感覚的な銘苅作。永吉作の口語ならではのニヒルさ。このような表現の冒険が沖縄でもっとなされていいのではないか。
 「豌豆の程なる莟を膨らませ菊は開花の力蓄ふ/比嘉美智子」
 繊細でいて力強い一首。花ゆうな短歌会会員には今後も大輪の歌の花を咲かせてほしい。(屋良健一郎・名桜大学准教授)