『震災/学校/子ども変わらないものと相も変わらぬもの』 距離と場で考える「言葉」


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
『震災/学校/子ども変わらないものと相も変わらぬもの』琴寄政人著 三交社・1512円

 この本は著者の教師としての経験を踏まえ、学校現場などで起こっているさまざまな問題に対し、大人と子ども、教師と生徒という関係における「距離」と「心」について数多くの事例を基に論じている。福島から転校してきた子どもに対するいじめとそれに対する教師の言葉、非行や不登校の生徒に対する教師の言葉など、相手にとって必要な言葉と学校社会において正しい(と考えられている)言葉の違いについて、その不適切さを痛切に批判している。

 同じ意味をなす言葉であっても、その使い方は「場」と「距離」によって異なるはずである。距離の問題は「臨床とことば」(河井隼雄・鷲田清一著)においても述べられている。絶対的な解答はなく、場合によっては聞くという行為で十分な場合もある。文字としての言葉と口に出す言葉の違いもあり、本書の学校現場と臨床心理や臨床哲学との共通点を見いだすことができる。
 また、教師は生徒に対して「学校的正解」を持って話さなければならないかのような事例が多く書かれている。学校のガラスを割ったとしても、生徒に掛けるべき言葉は状況に依存し、さらにはそれまでの生徒と教師の関係にも依存する。そのため、学校的正解はその生徒に対して言うべき言葉でないこともある。
 私はこの本を読んで、学校における教師と生徒の関係に、まちづくりなどで使われる「成解(せいかい)」の考え方で持ち込んではいけないのだろうかという疑問を持った。また、教師は生徒に対して必ず「正しい解」を持っていなければならないのか? そもそも「正しい解」とは何なのか?
 問題を起こさない生徒がよい生徒なのか? 1人でいることは問題なのか?
 教育とは「(教師が)教え(生徒を)育てる」なのか、それとも「(教師が)教え(生徒が)育つ」なのか。大人と子ども、教師と生徒、師匠と弟子らの関係を考えるきっかけを与える本である。なお、この本では多くの事例から問題提起を行っており、これらに対する著者の解は解決編として新たに取りまとめられるようである。(神谷大介・琉球大学工学部助教)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 ことより・まさと 1948年生まれ。栃木県出身。宇都宮大学卒。小学校教員、中学校教員を経て2009年に定年退職。「実戦教師塾」主宰。著書に『さあ、ここが学校だ!』『学校をゲームする子どもたち』など。

学校/震災/子ども
学校/震災/子ども

posted with amazlet at 14.04.13
琴寄政人
三交社
売り上げランキング: 671,037