『生きること、それがぼくの仕事』 思索と行動の記録


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『生きること、それがぼくの仕事』野本三吉著 社会評論社・2160円

 心引かれる書名である。著者野本三吉は3月末に沖縄大学学長を辞職したばかりの加藤彰彦さんのペンネーム。本書はこれまで書いた文章の中から、沖縄の暮らしや「子ども」「いのち」「記録」などを主題にした文章を集めている。

 著者は小学校の教師を4年半で辞めて全国を放浪。30歳から横浜市職員となり、ドヤ街で日雇い労働者の生活相談員を10年務めた。40歳から児童相談所へ移り、子どもの問題に取り組む。49歳から横浜市立大学などで教壇に立ち、60歳から沖縄大学へ。ほぼ10年ごとに脱皮し、前進する。全く型破りの人生だ。本質は「教育者」であり、「記録者」である。
 著者が1972年に創刊した個人誌『生活者』は30年続き、今も『暮らしのノート」と誌名を変え、刊行されている。驚くべき記録者だ。
 著者は常にノートを持ち歩き、人の話に耳を傾け、ペンで記録する。記録する相手は無名の人、普通の人。所属する記録サークル「山脈の会」の約束、「日本の底辺の生活と思想を掘り起こして、それを記録します」を実践している。
 20代で出した『不可視のコミューン』から近刊の『沖縄戦後子ども生活史』まで、三十数冊の著作は全て著者が生きて、思索し、行動した記録の中から生まれた。つまり、生きることは記録すること、記録することが仕事なのだ。
 著者は全ての人に自分史(ライフ・ヒストリー)をまとめ、一冊の本にすることをすすめる。フリーになったら「一人一人の生きてきた人生をまとめていくお手伝いをしたい」そうだ。
 先頃、大倉直著『命の旅人――野本三吉という生き方』(現代書館)が刊行された。本書と併せて読めば、野本三吉という人がどんなに優しく、魅力的な人物か、分かるだろう。(木村聖哉・フリーライター)
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 のもと・さんきち 本名・加藤彰彦。1941年東京生まれ。64年に横浜国立大学卒業後、横浜市内の小学校教諭。68年に教諭を退職し、日本各地を訪問。横浜市民生局職員などを経て91年に横浜市立大学助教授。2002年から沖縄大学教授、10年に同大学長。

生きること、それがぼくの仕事―沖縄・暮らしのノート