『日本漁業の真実』 “人中心”の総合解説書


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『日本漁業の真実』濱田武士著、ちくま新書・840円+税

 今、沖縄の漁業現場は台湾との「日台漁業取り決め」という国策に振り回されている。台湾に漁場を提供する一方的な決定がされる背景を協定から1周年の今、日本漁業に何が起きているのかを冷静に考える必要があろう。

 本書の帯タイトル「漁業は滅ぶしかない斜陽産業なのか」に読者の多くは引きつけられそうである。漁業の現場が多くの課題、問題点を抱えているのは社会的に知られているが、一般には分からないのが事実。本書は現場の基礎的な知識から始まって説明する“人中心”の総合解説書という感じがする。漁業、水産系というと生物分野が一般的ではあるが、経済、経営系に関係する現象が数多くあることが判明する編集となっている。
 著者の姿勢が「漁業の現実を把握することが重要」と、その問題把握は多方面に及ぶ。
 加えてその執筆姿勢は、章ごとの見出し項目にも明快に示されている。「見方を変えなければならない」「丸魚はなぜ鮮魚売場から消えたか」「マスコミに嫌われる漁協」などなど、一般向けに関心が持たれる事項が満載である。
 沖縄との関連では、業界の憲法「水産基本法」の基本理念である水産物の安定供給の確保などから、地域の再生を重視している点に注目した。「卸売市場の衰退は漁業、漁村の衰退に直結していると言っても過言ではない」(おわりに)と明言している。
 糸満への県漁連魚市場の移転事業を予定しているこの時期に、「水産業全体にある問題を需要と流通の動向から検証する」(第2章)姿勢は関係者に参考になろう。日台漁業については、その前触れとなった1998年新日韓漁業協定時にも、日本海の優良漁場である“大和堆”などを密室の政治交渉で譲ったらしいことが説明されている(第3章)。日本政府の姿勢は、変わっていなかったということなのか?
 そのほか「叩かれすぎた漁協とそのあり方」「地域と漁業の今」の中に今後に向けてヒントになるものが多かった。水産業界に長らく関わっていても「漁協と農協は何が違うか」(第6章)など、基本的なことも十分理解できていなかったことを自覚させる啓蒙(けいもう)書でもあった。(上田不二夫・沖縄大学名誉教授)
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 はまだ・たけし 1969年、大阪府生まれ。99年、北海道大学大学院水産学研究科博士後期課程修了。各地の漁村、漁協、卸売市場に赴きながら研究する。現在、東京海洋大学准教授

日本漁業の真実 (ちくま新書)
濱田 武士
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