『琉球 交叉する歴史と文化』 沖縄学の学際的研究成果


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 伊波普猷は、「古琉球」の輝かしい時代に比べ、「近世琉球」は暗黒の時代とみていた。しかし、本書は、近世琉球は冊封体制と幕藩体制の狭間で、異文化の交流が行われ、それらを取捨選択して「琉球文化」がつくられた時代であるとする。

 第一部は、琉球王府の正史・地誌などの編纂(さん)事業を通して、奄美・沖縄・宮古・八重山の諸地域に波及した「歴史叙述とウタの交錯」について論じる。『宮古島旧記』のアヤグと史歌および宮古島狩俣集落の神々の世界、奄美のウワサ歌などは、平たくいうならば「歌は世につれ世は歌につれ」ということであり、当該地域の歴史および社会事情に応じて育まれてきた。そして、それらの史歌・ウワサ歌・物語歌などは、琉球の民俗文化の多様性でもある。
 第二部は、琉球王朝文化の担い手(士族)たちが、明清・ヤマトの支配層や知識人と、漢詩・漢文・和文・和歌・琉歌などで交流したことを論じている。また、歴史資料から、古琉球時代の琉球国王と種子島氏との君臣関係は両者とも近世期に薩摩藩に従属し形骸化するが、古代の大宰府以来の歴史を概観するならば、薩摩・種子島・喜界島・奄美、そして琉球との、時代を超えた交流が想起される。
 第三部の「琉球文化の諸相」では、琉球の王族および士族たちが生成した首里城内の御嶽・イベ、琉球独自の仮名表記、芸能の「御取合」、琉球の「唐手」などについて論じている。特に、伝承に頼る儀礼・芸能・言葉・信仰などの琉球文化は、王族や士族が継承した精神性をも含めて今後ますます重要な研究テーマになると思われる。
 本書は、琉球・沖縄の歴史的地理的特徴を踏まえ、「交流」「交叉」を基軸に、考古学・歴史学・文学・民俗学・芸能論などの文化学の諸分野から、「琉球文化の形成」について論じ、琉球・沖縄の文化研究の在り方を提示している。
 つまり、本書は、沖縄学の学際的研究の成果を示すと同時に、新たな琉球・沖縄研究の方向性を示唆した好著である。
(狩俣恵一・沖縄国際大学教授)
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 しまむら・こういち 1954年生まれ。立正大学文学部教授。専門は琉球文学。琉球歌謡、琉球の「歴史」叙述を中心に研究。

琉球 交叉する歴史と文化
勉誠出版
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