『龍之舞 八重山パイン物語』 台湾農業入植者の苦難描く


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『龍之舞 八重山パイン物語』作・三木健、中国語訳・呉俐君、挿絵・熊谷溢夫 八重山台湾親善交流協会発行・1300円+税(台幣300元)

 本書は、おじいさんが2人の子どもたちに自身の子ども時代の体験を語り聞かせるというスタイルで書き進められている。
 平易な文体、各ページにふんだんに配された素朴な挿絵などは、子どものための絵本、あるいは絵物語のような体裁である。しかしこの物語は、台湾農業者入植のドキュメンタリーであり、近現代における台湾と八重山の交流史といっても差し支えない内容であるため、大人読者にも十分読み応えがある。

 サトウキビと並んで沖縄の基幹産業を支えてきたパインだが、最近は次々とお目見えする色鮮やかなトロピカルフルーツに紛れがちであった。本書はそんなパインのルーツを、台湾と八重山の交流史を背景に解き明かしてくれる。
 1950年代後半から八重山で興ったパインブームが沖縄本島北部にパイン栽培を広め、パイン産業が活性化したこと、その功績の陰に戦前台湾から八重山に入植した農民たちの血のにじむような苦労があったという基本的な史実を、私たちはどれほど知っていただろうか。
 彼らは戦前、「タイワナー」「三等国民」と差別され、台風やマラリアに苦しみながらも必死でパイン栽培に取り組んできた。ようやく軌道に乗ったころ、今度は戦争でパインがぜいたく品として栽培禁止の憂き目に遭う。開墾した土地を追われ、戦後は「外国人」としてゼロから再出発しなければならなかった悔しさはいかばかりだっただろう。
 人は踏まれた足の痛みには敏感でも、踏んだ人の足の痛みには驚くほど鈍感である。そのことを本書によって思い知らされた。
 復帰後、外国産の安いパイン缶詰の輸入に押されて衰退したパイン産業が、かつての輝きを取り戻せるかどうかは誰にも分からない。だが、数々の試練をくぐり抜けてパインの苗が生き延びたように、台湾と沖縄の交流の歴史は後世に語り継がれていくことだろう。
 中国語訳が付いたことも両国の懸け橋となるための優れた工夫である。子どもたちのように、まずはおじいさんの話に耳を傾けてほしい。これは現代の民話でもあるのだから。
 (齋木喜美子・福山市立大学教授)
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 みき・たけし 1940年石垣市生まれ、ジャーナリスト。
 う・りじゅん 1983年台湾高雄市生まれ、琉球新報記者。
 くまがい・いつお 1936年生まれ、イラスト、デザイン、執筆活動を展開中。

※注:熊谷溢夫さんの「溢」はサンズイに「益」