『島嶼地域の新たな展望』 新たな学問分野を発信


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『島嶼地域の新たな展望』藤田陽子、渡久地健、かりまたしげひさ編 九州大学出版会・3600円+税

 「島嶼(とうしょ)」は大小さまざまな島々という意味で使われる。島々が置かれている環境は多様であり、「島嶼」という単語で一般性を包括して表現することには困難さがあるので、各島の特性を勘案した、多くの情報の蓄積が必要である。著者たちは、島嶼社会に関するさまざまな課題や特性を分析し、島嶼の劣位性を優位性と捉え直す、という視点でそれらの課題を再検討し、島嶼研究の重要性を整理している。

 学問の対象として考えた場合、島嶼は決して劣位にはない。第一章でも述べられているように生物学、進化学の分野において、島嶼は極めて重要な知見を提供してきた。
 本書の内容は、生物・文化の多様性、言語文化、再生可能エネルギー、漁業管理、食環境、健康、教育、社会インフラ、防災、水資源管理、など多岐にわたっている。これらの論考からは多くの重要な島嶼における研究が進められる可能性が秘められていることを読み取ることができる。
 一見相互の関連性がないテーマが並べられているようにも感じられるが、著者らはこれを「島嶼」という共通語を用いて結び付けている。島嶼は自然・文化・社会・経済などさまざまな要素が密接に関係し、影響し合って社会を形成しているシステムであることを示しつつ、既存の学問分野を融合させ、新しい学問分野の構築に挑戦している。
 これらの話題のつながりが解析され、島嶼の複合性・多面性が明確にされることにより、島嶼の全体像が理解できるに違いない。
 研究の究極の目標の一つは地球上における人類と自然の永久的な共存の道を見つけることである。本書が扱っているテーマは島嶼のみのものではない。本書は地球の問題を扱っているという見方で読むことも面白い。島嶼という半閉鎖システムが地球という最大のシステムのモデルになり得るからである。
 島嶼研究により現在世界で起こっている諸問題の解決の糸口が見えてくるかもしれない。島嶼社会モデルを世界に向けて発信しようとしている著者たちの意気込みを感じ取ることができる良書である。(土屋誠・琉球大学名誉教授)
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 ふじた・ようこ 琉球大学国際沖縄研究所教授。専門は環境経済学。
 とぐち・けん 琉球大学法文学部人間科学科准教授。専門は地理学。
 かりまた・しげひさ 琉球大学法文学部国際言語文化学科教授。専門は琉球語学。