『琉球風画帖 夢うつつ』 沖縄の見どころ 再発掘


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『琉球風画帖 夢うつつ』ローゼル川田文・画 ボーダーインク・1800円+税

 500年前に造られた「長虹堤(ちょうこうてい)」と呼ばれた海中道路の水彩画を眺めている。昔の松山辺りから崇元寺までの道行きが、その時代に入り込んだ旅人のようなエッセーと水彩画のセットになり対峙(たいじ)している。そのせいか、読んでいるうちに水彩画の風景が動き始めるような気分になっていく。

 沖縄の消えた昔の風景や今も残る懐かしい風景の数々が時を超えて、いろいろな場所へと夢うつつに転移していく。26におよぶ水彩画の風景はユニークな文章手法でつづられ、紹介されている。
 沖縄の風景は戦前と戦後では、戦争を境に大きく変わった。特に那覇の市街地の周辺のいろいろな場所の水彩画とエッセーの響き合いは、読者をいろいろな場所に旅をさせてくれる。沖縄が生んだ人間味あふれる偉大な詩人、山之口貘が住んでいた戦前の東町辺りの様子もある。
 「国際通り」では映画館の全盛時代の幕開けとともに、描かれた風景の中を駆け巡る少年は作者自身ではないのかと想像を膨らませる。「B・C通りブルース」ではコザのG1たちのあふれる「CLUB」に潜入、八重山のアンガマ祀(まつ)りに登場するなどしてタイムスリップしながら生き生きと描き書いている。
 おのおのの水彩画とエッセーを読んでいると、ついその描き表された風景の中を歩き回っているような錯覚に陥る。本書はもちろん、ウチナーンチュとりわけ、団塊の世代から上の世代の人たちにとっては、限りなく郷愁を誘う水彩画と読み物であるに違いない。
 しかし一方で、私は、年間600万人を超す観光客にとっても、沖縄各地の見どころを新たに掘り起こすための啓発の書でもあると思う。高品質の水彩画とエッセーのコラボレーションは、何気なく見ていた風景の泉を見つける案内書としても活用をお薦めしたい。
 ちなみに私のお気に入りの一つは、文章の中に出てくる「バイオリンカメ」。彼女のバイオリンの演奏を聴きながら、夕焼けの慶良間諸島を遠望しつつ、まどろんでみたいと妄想する。
 (仲里誠毅・日本気功科学研究所所長、琉球新報カルチャー教室講師)
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 ろーぜる・かわた 那覇市首里生まれ。日本本土の大学を卒業後、関西での生活を経て、沖縄の日本復帰後、帰沖。設計業務に携わりながら、エッセーと水彩画を続ける。