【チャイナ網路】女屍図のミステリー


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 台北の故宮博物院が、本格的な出版事業に乗り出したのは戦後。ある事件がきっかけだった。清の太祖ヌルハチから皇太極にいたる約30年間の歴史を満州語で記した「満文原档」の1葉2ページが紛失。国宝級の史料欠損は一大スキャンダルとなった。
 事の起こりは1969年。同院が写真版での出版を決め、同書を分解の上、外部に貸し出した時のことだった。戻って来てみると1葉足りない。写真は残っていることから、姿を消したのは明らかに撮影の後だった。
 このページ、写真で見ると、中国語の裏文字と女性の裸体がうっすらと浮かび上がっている。「十指に欠損なし」の記載も見える。実は当時、紙は貴重だったため、再利用するのが慣例で、たまたま明朝廷の検視報告書の裏紙が使われていたのだ。俗に「女屍図」と称されるゆえんでもある。
 紛失の原因については、監督した専門家による窃盗説が有力だが、真相はいまだやぶの中だ。事件の後、院内には撮影、出版、修復などの部署が急きょ整備され、文物が故宮の門を出ることはなくなっている。
(渡辺ゆきこ、本紙嘱託・沖縄大学助教授)