『合同エッセイ集 サバニ』 熟成した教養と人生観


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『合同エッセイ集 サバニ』沖縄エッセイスト・クラブ編 新星出版・1389円+税

 帯文に「ペンを櫂(かい)に見立てた会員は37編の作品をサバニに載せ、社会の海へ渾身(こんしん)の力でこぎ出した。バラエティーに富んだものを満載しているので楽しんでいただきたい」とある。この本は沖縄エッセイスト・クラブ編の31号である。

 執筆者を見て驚いた。大学の同期生をはじめ、元職場の上司、特に恩師の名前を見つけて恐縮した。さらに元沖縄県知事、元大学教授、高校教諭、医師、新聞紙上の短歌、俳句の選者らと続き、放送、会社関係と多彩である。
 一読して作品の特徴をあげると(1)各10ページ前後で読みやすく、多忙な方にもおすすめできる(2)題材もいろいろで、大きい活字と平易な文章で楽しく読めた(3)執筆者は成熟年代である(4)作品の背後に筆者の知性、豊かな教養、人生観を感じた(5)旅の作品が多かった。
 旅に関する三つの作品を私の読後メモから紹介すると、まず稲嶺恵一氏の「茂みの中のペンギン」は、ネルソン・マンデラ氏の優しさがペンギンの愛らしさと重なった。内間美智子氏の「異国の風に吹かれて」は、美しい英国の自然と音楽の都ウィーンで、喜々と遊ぶ仲良し三姉妹。表現力が抜群でした。伊佐節子氏の「旅立ち」は、何か不思議な夢を見た思いであった。二十数年先の自分の旅立ちを想像したのか、臨終の様子が克明に描かれている。しかも慈愛に満ちたまなざしで、死を不浄視せず、むしろ感謝の思いで旅立つ姿に死後の世界への親近感さえ覚えた。
 そのほか、熟年世代を感じさせる作品として、島村枝美氏の「救急車が気になる年頃」には、まさに即共感! 永吉京子氏の「父を看取る」は1月に死去した甥と重なった。宮里テツ氏の「今になって二題」は、夫婦の深い愛情と告白後の安堵感が伝わり、長田清氏の「米寿の祝いとウクレレ」は、まず楽しかった。さて残り30編の作品は? それはこの本を手にとってのお楽しみ! 熟成古酒の香りですよ。
 (喜瀬慎仁・ペアーレ楽園、幸寿大学校学長)