『ハブと海洋危険生物ハンドブック』 国内危険生物学の総集編


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『ハブと海洋危険生物ハンドブック』 富原靖博、新城安哲著 出版舎Mugen・1111円+税

ハブと海洋危険生物ハンドブック

 地球上のあらゆる生物は、身を守るためのさまざまな工夫をして生き延びてきた。人間は知恵で生き抜いてきたが、昆虫や魚、ヘビなどの中には、それぞれ特殊な毒成分を体の中に発達させて、一撃で相手をしびれさせ、時に、相手の命を奪う武器を持つ種類があり、植物にも有毒の種類が少なくない。琉球の自然は豊かで、森や里や海には、動物・植物が人間とはつかず離れず、時には密接に関係しながら、繁盛している。

 自然豊かな琉球の島々に住む私たちは、これらの自然と仲良く付き合っていかなければならない。人間よりもはるか大昔からこの島にすみついている生き物をよく知るために勉強し、これを尊重すること。
 中でも、毒をもって生き延びてきた動物・植物には、そのしたたかな生きざまに畏れと敬意を持って接するべきである。陸の王者ハブの他にも、海にはハブクラゲ、アンボイナ、オニヒトデ、ウミヘビなど、数え切れないほどの生き物が天真らんまんに暮らし、子孫を残している。生物たちには、人間に配慮する余裕はない。人間の方が、彼らの存在とその生態を知った上で接していかなければならない。
 今まで、琉球の危険生物、特にハブに関しては高良鉄夫、照屋寛善博士らにより、生物学・疫学の分野での格調高い論説がなされて、大いに知見が深まったし、一般向けの啓発的な出版物も少なくないが、この度、危険生物それぞれの特徴や、それとの付き合い方についての格好の参考書が出版された。ハブの生態、毒、対策についてまとめた富原靖博氏も、海洋危険生物を担当した新城安哲氏も、県の衛生研究所で長年、有毒生物の調査研究に携わり、貴重なデータを蓄積した学者であり、専門家である。
 簡潔にして要を得た内容で、英文要約も付いている本書は、わが国におけるハブと海洋危険生物学の総集編ともいえるもので、多くの県民や観光客、外国人にも読まれ、被害ゼロになるまで対策が進むことを望む。
 (吉田朝啓・元県公害衛生研究所所長)

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 とみはら・やすひろ 1950年、大宜味村生まれ。徳島大大学院博士課程修了。県立芸術大教授。

 あらき・やすてつ 1947年、熊本県湯前町生まれ。琉球大卒。県公害衛生研究所、県の福祉保健所に勤務し、2008年に定年退職。