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<メディア時評・特定秘密保護法>致命的欠陥、修正されず 取材行為も厳しく制約


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 昨年末に成立した特定秘密保護法(以下、法)に基づく制度の全貌(ぜんぼう)が、ようやく明らかになりつつある。立法後、内閣官房のもと施行細則の検討がされてきたが、秘密の判断基準等を「第3者」の目で検討するとして設けられた情報保全諮問会議によって、政令等の政府原案が了承、公表されたからだ。

 この成案を受け現在、パブリックコメントが実施されていて、今月24日の締め切り後、秋には閣議決定され、年内には法が施行される予定である。パブコメは、行政手続法に則(のっと)って行われる施行令案のほか、行政機関の組織変更など全部で三つからなる。以下では、これらの内容を念頭に、残された課題を確認しておきたい。パブコメを提出する際の参考にもしていただきたい(電子政府窓口「イーガブ」のパブコメページから提出可能)。

秘密保護法制の構造

 制度の善し悪(あ)しを考える視点は、政府本位の情報隠蔽(いんぺい)法の性格を、どこまで国民本位で秘密を管理する法制度に修正できたかである。そうした面から、明らかになった秘密保護法制の構造上の問題は以下の通りである。
 第1は、制度の中心である秘密の指定と解除の仕組みだ。ポイントは、誰がどのような基準で「秘」指定し、それがどのような期間、どこで保管されるか、ということになる。一般に、秘密指定権者が多いと秘密が量産される可能性が高まるといえ、一定程度の制約をかけるわけだが、同法では19省庁の長に限定した。一見、組織のトップに限定することで、秘密指定も制約されると考えがちだが、秘密管理の責任者がおおよそ内閣の構成メンバーと重なることによって、違法不当な秘密指定についても政府内で責任追及がされない可能性が高い。
 そうなると、ますますルールで縛ることが求められ、今回示された「特定秘密の指定及びその解除並びに適性評価の実施に関し統一的な運用を図るための基準」(運用基準)が大きな意味を持つことになる。法では、秘密の対象は別表の形で示されたが、「その他」とか「等」という用語がつくことで、防衛・外交・テロ活動・スパイ活動の4カテゴリーについて、結果的にすべての情報が対象となっていると批判されていた。今回の運用基準でこの別表に「細則」がつけられ、言葉からすると詳細が決まったような感覚になるが、その実は法で使用された単語を分解して説明したにすぎず、具体的な対象が示されたということにはなっていない。
 法では、その絞り込みのための要件として、「非公知」と「特段の秘匿性」が明記されており、運用基準によってどこまで具体的にその言葉の意味を規定し、絞りがかけられるかが、まさに秘密増殖の歯止めがかかるかどうかの肝であった。しかしこの点についても、「重大な支障をきたす」といった言葉の言い換えなどにとどまり、官僚が秘密にしたいと思った情報を、きちんと選別する機能は持ち合わせていない。
 そして何より、この秘密指定における大きな問題点は、政府の説明責任が明確でないことである。あくまでも原則は、公的な情報は国民のものであるという点で、そのためにすべての公的情報は開示されなければならない。そしてもしすぐに見せることができない場合は、なぜ不開示なのかを説明する責任が政府にはある。これは情報公開法の最初にも明記されている大原則だ。それからすると、法は秘密指定の立証責任が政府にあることを明記する必要がある。これがないと、7月に示された沖縄密約文書公開請求訴訟の最高裁判決に見られるように、政府が見せたくない文書は秘密指定し、それを捨てたと言い張れば、政府はその文書を未来永劫(えいごう)、国民の目から隠し通せることになるからだ。
 秘密を限定化する一つの方法は、秘密にしてはならない枠を定めることであるが、こうした方法は今回の運用基準でも示されることはなかった。また、最長60年まで政府が延長し続けることを止める特段の仕組みも作られなかった。要するに、指定したのと同じ人が同じ基準で、延長してよいか否かを判断するという仕組みであって、その時点で指定を解除するという発想が生まれ難いことは容易に想像がつくからである。
 これと関連するが、秘密を解除する仕組みが事実上ないことも大きな問題だ。法で作られなかっただけでなく、チェック制度との関係で設けることも可能であったが、ゼロ回答であった。とりわけ一般市民からの請求を受け付ける道が全くないことは問題である。

チェック制度の欠陥

 そして第2が、秘密の管理の適性さをチェックする仕組みだ。大きくは、第3者による監視制度と、内部告発を保障することで不正を防止する制度となっている。政府は、重層的な監視機関と呼ぶが、そのいずれについても不合格な状況だ。示された「内閣保全監視委員会」と「独立公文書管理監(情報保全監察室)」の二つの機関は、行政内部の内輪の追認機関になる可能性が大であるからだ。
 監視機関の条件は、独立性、網羅性、拘束性であるが、この政府機関はそのいずれの条件をも具備していない。あくまでも政府組織の中で上部機関に従属しているほか、人的にも出向人事が予定されているからだ。秘密指定権者の部下、もしくは出向元に帰ったのち、事実上、秘密指定をする立場に着く可能性が高い者がチェックをするという、外形的にも監視機関とは言い得ないものである。
 さらには、せっかくチェックの仕組みの一つとして設けられた内部通報制度であるが、内部告発者を守る制度が事実上存在しない。まず、窓口が所属する当該官庁の窓口であって、その窓口には通報の中身を話すことができないという矛盾を抱える。秘密の中身を話しては、その時点で秘密が漏れてしまうという理由からとみられるが、そのような形式的な受付窓口に言いに行こうと思うかどうかは明らかだろう。しかも、人事報復等の防止策も示されなかった。
 このように、拙速で作ってしまった法の致命的な欠陥は、ほとんど修正されることなく運用基準が決まろうとしていることになる。ここでは取り上げる余裕がなかったが、適性評価と呼ばれる秘密を扱う人の管理方法も問題が山積したままだ。さらには、取材・報道の自由についても、「情報の漏洩(ろうえい)の働きかけを受けた場合」は上司への報告を義務付けられている。これは取材行為を厳しく制約することになるだろう。こうした点についての議論も生煮えのまま、ヒミツという言葉ですべてが許される体制ができることは、あまりに大きな問題といえる。
(山田健太、専修大学教授・言論法)