『沖縄現代政治史』 自ら将来描く精神の原点


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『沖縄現代政治史─「自立」をめぐる攻防』佐道明広著 吉田書店・2400円+税

 本書は、戦後日本の防衛政策史を主要な研究テーマとしてきた著者が、「政策情報プロジェクト」に加わって沖縄を訪ねた1999年から今日までの沖縄研究の集大成である。
 琉球王国の歴史を持つ沖縄は、日本に併合された後も自立や独立の論議や活動が絶えなかった。

その中でも復帰後、米兵による少女暴行事件をきっかけに島ぐるみの反基地運動が展開された大田県政下で、沖縄県が日本政府に提示した「国際都市形成構想」も、この「自立」を目標にしていた。
 本書は1990年代半ばのこの構想の誕生と終焉(しゅうえん)に焦点を当て、米軍基地問題を背景にした大田県政と日本政府の攻防を克明に描写している。
 「国際都市形成構想」の策定に深く関与した吉元政矩元副知事や上妻毅元都市経済研究所常務理事などのオーラルヒストリーが下地にあるので、彼らの証言を織り込みながらの鋭い考察は読む人を引きつける。
 「基地なき沖縄の将来像」を念頭においた「国際都市形成構想」は、基地問題とは切り離して沖縄開発庁方式の下で政府が主導する従来の沖縄振興開発計画とは相いれなかった。沖縄だけが他の都道府県と違って総合計画を持たなかった。
 そこで国土庁の全国総合開発計画と結び付けて国際都市構想を提示することによって、開発庁方式からの離脱を図ったのである。
 しかし沖縄側の「全県フリーゾーン」が「一国二制度」であると自民党税調や大蔵省が反対し、吉元副知事の再任が議会で拒否され、大田知事も98年の知事選で敗れて国際都市形成構想も消えていく。だが沖縄の将来像を、日本政府ではなく沖縄自身で描くという精神は生き続け、2010年、沖縄県は自らの将来像として「沖縄21世紀ビジョン」を作成した。
 与那国自立構想についての考察や比嘉幹郎元副知事の証言も興味深い。
 本土の言論や政治の沖縄に対する姿勢の劣化を憂える著者の論説は、再び政治の季節を迎えている沖縄の将来を考える上で、貴重な示唆を含んでいる。(江上能義・早稲田大学教授)
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 さどう・あきひろ 1958年、福岡県生まれ。83年学習院大学法学部卒。89年東京都立大学大学院社会科学研究科政治学専攻博士課程単位取得。政治学博士。現在、中京大学総合政策学部教授。

沖縄現代政治史――「自立」をめぐる攻防
佐道明広
吉田書店
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