『沖縄から考える「伝統的な言語文化」の学び論』 地域の授業づくりの道標


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『沖縄から考える「伝統的な言語文化」の学び論』村上呂里、萩野敦子編 溪水社・4800円+税

 2008年の学習指導要領の改訂によって指導事項に「伝統的な言語文化」が新設された。古典を学ぶ位置付けが変わり、多くの国語教師が戸惑った。本書は「伝統的な言語文化」の捉え方や授業づくりで悩む国語科教師にとって的確な道標となる一冊である。

 県内の大学で国語教育に携わる5人の執筆者が「沖縄」を素材にした「伝統的な言語文化」の学びの可能性を探求し提示している。「伝統的な言語文化」に「沖縄」というフィルターを掛けることで様相が一変し、「沖縄」の〈生活〉〈思い〉〈ものの見方・考え方〉〈今〉をも映し出す。
 昔話や地域の素材の教材化、組踊などの古典芸能の教材化など、さまざまな視点から「伝統的な言語文化」の新しい授業づくりが提案されている。七つの章の全体を通して、執筆者おのおののフィールドが異なる。そのことが学びを広げ、より豊かなものにしている。
 例えば、誰でも知っている神話を教材化した「いなばのしろうさぎ」。その「神話」を「郷土の民話」へとつないでいく学習活動の事例や「郷土の伝説」に重きを置いた事例など、数社の教科書比較は興味深く読み進めることができた。
 また、石垣市の小学校では、日本各地に見られる「物言う魚」の昔話を教材にした授業実践を提案しており、興味深い。子どもたちは教材を通して、自然との向き合い方を学び、百年後のふるさとをいかにして守るかを考える。これらの学びは、筆者の言う「創造力=ことばの力」「共に生きる力」の育成につながっていく。
 日本各所に「伝統的な言語文化」があるように沖縄にも価値ある素材が多く存在している。地域の言葉や生活に根付いた言葉を学ぶ意味は、私たち一人ひとりの生活を過去から現在、未来へとつなぎ、より豊かにするためなのだとこの書によって再認識させられた。
 装丁が見事だ。宮古上布、八重山上布、久米島紬の古布が、タイトルの意味と重なる。
 「伝統的な言語文化」という縦糸に、沖縄という地域の視点や多様な郷土教材という横糸を織り込むと味わい豊かな上質な布のような授業が生まれる。
 (上江洲朝男・那覇市立松島中学校教頭)
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 むらかみ・ろり 琉球大学教授。教育学博士。著書に「日本・ベトナム比較言語教育史 沖縄から多言語社会をのぞむ」(明石書店)。

 はぎの・あつこ 琉球大学教授。著書に「日本の作家100人 人と文学 清少納言」(勉誠出版)。

沖縄から考える「伝統的な言語文化」の学び論
溪水社
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