『新時代の沖縄経済と交易―TPP時代の中で』宮城弘岩著


社会
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『新時代の沖縄経済と交易―TPP時代の中で』宮城弘岩著 琉球書房・1600円+税

自立に向けた貴重な示唆
 かつて「沖縄発本土行き」という言葉が一世を風靡(ふうび)した。そうした県産品移輸出の機運を盛り上げた最大の立役者が本書の著者であるのは、衆目の一致するところだろう。著者はまた筋金入りの自由貿易論者でもある。かつて全島フリーゾーン構想が賛否両論を巻き起こしたが、その構想の理論的支柱が著者であった。

 その人物が環太平洋連携協定(TPP)をめぐる考察をまとめたのだから、TPP礼賛論に立つのは必然である。筆者はTPP反対論者だが、著者の考察は論理的であり、得心のいくところも大いにある。その論理的記述の行間にはまた、沖縄経済をいかにして自立させるか、という強い情熱がにじんでいる。その一貫して変わらぬ情熱に深い感銘を覚える。
 TPP賛成の論拠の一つとして著者は関税の撤廃を挙げる。確かに沖縄は消費型経済だから、関税の低減は県民生活にゆとりを生むことになる。一方で沖縄の製造業の多くは原材料を国外から仕入れて加工しているから、原材料の関税撤廃は沖縄産品に価格競争力を付与する、という視点も論理的である。カボタージュ(国内輸送で外国船を排除する制度)が沖縄の輸送コスト高を招いているとして著者は長年、その撤廃を提唱しているが、TPP参加でそれが実現するという視点も新鮮だった。
 TPPは沖縄の農業、中でもサトウキビに打撃を与えるという反対論も根強いが、著者は、自閉的農業政策がまさに農業を駄目にしていると説く。高関税で砂糖価格を引き上げるより、政府による財政的補助を農家への直接支払いにして消費価格を引き下げた方がいい、という理論には説得力があった。オランダやキューバの高付加価値、負担の軽い農業は、高齢化が進む沖縄農業がモデルにすべきだ、という主張も参考になる。
 半面、医療や保険、食品表示の在り方に与えるTPPの影響については、著者はあえて触れていない。本書は沖縄特有の影響に特化しているからだ。だが筆者はまさにその点でTPPに反対なのである。その点は別途、議論してみたい。蔡温を祭温と表記するなど、誤字が目立つのも惜しまれる。版を改める際に留意してほしい。
 (普久原均・琉球新報論説副委員長)
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 みやぎ・ひろいわ 1940年、南風原町生まれ。早稲田大学商学部卒、国立台湾大学経済学研究所(大学院)碩士。県工業連合会専務理事、同副会長、県商工労働部長、沖縄物産企業連合設立代表取締役社長などを歴任。