『サムスンに学ぶな!』 日本のモノづくり応援


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『サムスンに学ぶな!』伊敷豊著 彩図社・1200円+税

 「サムスンに学ぶな!」がタイトルである。「日本企業がサムスンに学ぶべきこと」などの本が出ている中で、少々挑戦的にも聞こえるが、啓蒙的で示唆に富む本である。県内書店ベストセラーともなった「沖縄に学ぶ成功の法則」や「日本の流儀・成功のスイッチ」などの著者でもあるオンリーワンマーケティング代表の伊敷豊氏によるものだ。

 伊敷氏は、前著「日本の流儀」(日本流経営・マーケティングの本質を説いた著書で、合わせて読むと著者の主張がより明確に理解できる)で「マーケティングは1650年ごろに三井家の創業者よって考案された」とドラッカーを引用して述べている。
 このことは、米国におけるマーケティングの教祖的存在で、「Marketing 3・0」の著者でもあるフィリップ・コトラーが、世界初の百貨店は彼自身を含む多くの著書で紹介されてきた仏のボン・マルシェ(1852年)ではなく、三井であることを近年の講演の中で述べていることとも符合する。「日本流経営・マーケティングを見直そう」という伊敷氏の言葉がより現実味を帯びてくる。
 本書の副題は「日本の家電メーカーは、なぜ、凋落(ちょうらく)したのか!」であるが、著者は「日本のモノづくりの崩壊や技術力の衰退ではなく、グローバル・スタンダード病にかかった『無能な経営者』の『人災』である!」と断ずる。金もうけが目的のグローバル・スタンダードは、大多数の国民に貧困や失業をもたらし、一握りの富裕層を生み出すと指摘、「金もうけ」より先に「公徳心」の基に、顧客、社員、社会のことを考える日本流経営こそ、日本企業繁栄の礎であるとする。
 サムスンのローエンド、フルライン価格戦略など具体的なマーケティング戦略解説もあるが、本質的には「身を捨てて、社員の幸福を願うのが日本流経営者の極致」として、「これからは『琴線』を読む日本流経営、日本流マーケティングの時代」と結ぶこの書は、日本の底力を感じさせ、「日本のモノづくり現場は世界トップレベル」という自信を持てという応援メッセージでもある。
(平敷徹男・琉球大学名誉教授)
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 いしき・ゆたか マーケティングコンサルタント、沖縄国際大学産業総合研究所特別研究員。主な著書に「沖縄に学ぶ成功の法則」(沖縄スタイル)など。