『あやしい! 目からウロコの琉球・沖縄史』 奇妙な話の玉手箱


社会
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『あやしい! 目からウロコの琉球・沖縄史』上里隆史著 ボーダーインク・1600円+税

あやしい!目からウロコの琉球・沖縄史

 例えばこういう怪談がある。あるタクシーがとある場所で女をひろうと、女は「○○まで行ってください」と言う。タクシーの運転手は女の陰気さに何か消化できないものを抱えながらも、目的地まで車を走らせる。「お客さん、着きましたよ」と振り返り女を見ると、女の姿は既になく、目の前の場所ではまさにその女の葬儀が行われている最中だった。

 これは繰り返し語られる、女の幽霊を乗せたタクシーの有名な怪談だが、過去の歴史を調べていくと、辻に遊郭があったころ、死んだジュリの幽霊を乗せた人力車の話が残っていた。タクシーが人力車になっただけの、大筋そのままの話であった。怖い話、奇妙な話、すなわち怪談とか奇談とか呼ばれる話の類いは、いつの世にあっても興味を持たれ、語り継がれ、そして生み出されてゆくものだと実感した。
 例えばこの本にも、粟国島で起きた「アブリワズライ」と呼ばれる、誠に奇妙で恐ろしい話が掲載されている。
 その昔、粟国島で奇怪な怪光線が目撃され、それを見た人々や家畜が、バタバタと死んでいくという、世にも恐ろしい事件が起きた。これは琉球王府の正史である「球陽」に記された、実話である。その事件を知った王府は、一人の役人を粟国島へと遣わすのだが、結局そのまま事件は迷宮入りし、記録だけが残されることになる。
 これなどはまさに「X-ファイル」を地で行くような事件だが、何度も言うように実話なのである。事実は小説より奇なり。われわれの知る琉球の歴史の裏側に、こんな奇妙な話が残っていたのかと、思わず引き込まれてしまう歴史コラムである。
 沖縄に実在するロゼッタストーンや、久高島に異種の民がいたという話など、事実か虚偽かはひとまず置いておいて、なぜそのような話が現代まで語り継がれてきたかに思いをはせるのも、琉球史を語る上での悦楽の一種である。本書にはそんな「あやしい」話が、軽妙な筆致で玉手箱のようにゾクゾクと繰り出されている。(小原猛・作家)
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 うえざと・たかし 1976年生まれ。琉球大学法文学部(琉球史専攻)卒。早稲田大学大学院文学研究科修士課程修了。現在、早稲田大学琉球・沖縄研究所招聘研究員。