『沖縄のジュゴン』 盛本勲著


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『沖縄のジュゴン』 盛本勲著 榕樹書林・900円+税

暮らし支えてきた生き物
 一読して、沖縄の人々とジュゴンとは、原始時代から琉球王国時代を経て現代に至るまで、長いお付き合いをしてきたのだという思いを強くした。
 著者は沖縄県の文化財調査・保護の仕事をしている行政内の考古学研究者である。貝塚やグスクの発掘で、ジュゴンの骨で作った飾りや道具が見つかる。著者はこれらを観察しているうちに、考古学の分野だけでなく、歴史上の古記録、民俗事例、さらにはジュゴンの分布、生態、捕獲法、調理法まで含めて、まとめたのがこの本である。

 著者は沖縄県の文化財調査・保護の仕事をしている行政内の考古学研究者である。貝塚やグスクの発掘で、ジュゴンの骨で作った飾りや道具が見つかる。著者はこれらを観察しているうちに、考古学の分野だけでなく、歴史上の古記録、民俗事例、さらにはジュゴンの分布、生態、捕獲法、調理法まで含めて、まとめたのがこの本である。
 遺跡出土のジュゴン骨製品について、図や写真を多用して紹介し、原始人はジュゴンの骨を活用し、暮らしを便利で彩りのあるものにする工夫をしてきたことを説く。中でもチョウチョウの形をした飾りは、今でも使えるデザイン感覚に感心させられるのだが、著者はさらに踏み込んで災いを避けるまじない用でもあったとする考察を加える。原始人の心のうち(精神文化)まで伝わってくるようだ。
 一方、グスクから見つかったジュゴン製のサイコロには、上面と下面の孔(あな)(数)の合計が七にならないものもあるなど、新しい外来文化を受け入れたころの話も愉快である。
 ジュゴンは王国時代には国王への献上品として扱われ、あるいは中国からの冊封使への接待料理のメニューになるなど、特別な扱いを受けていたという。またある島でのジュゴンの骨を奉納した拝所の共同調査の内容とともに、自分たちの食料となって暮らしを支えてきた動物への感謝や崇敬の気持ちを表す世界の民俗行事例を紹介し、ジュゴンも同じような扱いを受けてきたと説く。
 さて、現代のジュゴンは崇敬されることもなく、別の大型動物(人間)の一時的都合で追い詰められ、とどめを刺されようとしている。まずはこの本を読んでから、ジュゴンとの向き合い方を考えることをお勧めしたい。
 (安里嗣淳・元県立埋蔵文化財センター所長)
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 もりもと・いさお 1955年久米島生まれ。78年沖縄国際大卒。83年、名古屋大文学部史学地理学科考古学専攻研究生終了。84年、県教育庁文化課採用。93年から沖縄考古学会理事。県立埋蔵文化財センター調査班長。